血管性認知症(vascular dementia:VaD)は,脳血管障害が原因となる認知症である。近年,アルツハイマー病が血管性認知症に高頻度に合併すること,両疾患で血管因子が発症リスクとなることが明らかになり,是正可能な因子に早期に介入することの重要性が指摘されている。また,脳卒中後に認知症を発症する場合,脳卒中後認知症と呼称されるが,必ずしも純粋な血管性認知症ではなく,脳血管障害を伴うアルツハイマー病(混合型認知症)であることもある。このため,血管性認知症,脳卒中後認知症,混合型認知症,血管性軽度認知障害を含む包括的な呼称として,血管性認知障害(vascular cognitive impairment:VCI)の用語も用いられている。
血管性認知症は,脳卒中発症3カ月以内に認知症を生じるか,神経画像の異常所見が認知症を説明するのに十分であるか,いずれかに基づいて診断される。認知症を生じる脳血管病変は主に,①主として大脳皮質を障害する大小の梗塞が多発する,②脳小血管病によるラクナ梗塞,白質病変,微小出血が多発する,③認知機能に特に重要な部位の単発病変,の3通りがある。このほか,脳出血,脳低灌流,CADASIL,CARASILなど遺伝子によって規定される亜型がある。
血管性認知症は,脳血管病変がなければ発症しない。このため,脳卒中の予防と治療は,血管性認知症の治療方針・処方の組み立てに重要な意味を持つ。中核症状に対する治療の骨子は3つにわけられ,①血管リスクの抑制,②脳血管障害の再発予防,③抗認知症薬,が挙げられる。中核症状に関連して生じる認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)に対しては非薬物療法を行い,必要に応じて薬物療法を追加する。
血管性認知症の半数は脳小血管病性認知症であり,血圧の管理,ラクナ梗塞再発予防が最も重要なポイントになる。中年期に高血圧があっても,脳小血管病の進展に伴って血圧は下降傾向を示すため,過去の高血圧既往にも注意する。また,脳小血管病が進展すると血圧の日内変動幅が減少し(non-dipper型),場合によって夜間の高血圧を呈する(inverted型)。このため,オフィス血圧が正常であっても高血圧が存在すること(仮面高血圧)があり,自由行動下血圧計を用いた血圧日内変動や家庭血圧のチェックを徹底する。アルツハイマー病を合併する場合には,抗認知症薬の適用になる。
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