突発性難聴(idiopathic sudden sensorineural hearing loss)は突然に発症する原因不明の高度感音難聴で,主に内耳障害に起因する。通常一側性で難聴の改善・悪化を繰り返すことはない。推定される病態として,循環障害,ウイルス感染,自己免疫などが挙げられている。発症頻度に性差はなく好発年齢は60歳代で,わが国の罹患頻度は人口10万人当たり60.9人である1)。
喫煙,過度のアルコール摂取は発症のリスク因子とされ,突発性難聴の既往は脳卒中の危険因子ともなる。
厚生労働省「難治性聴覚障害に関する調査研究班」の診断基準(2015年改訂)にある「主症状」と「参考事項」のうち,主症状の全項目を満たせば本疾患と診断される1)。
①突然発症,②高度感音難聴,③原因不明
①難聴:純音聴力検査で,隣り合う3周波数で各30dB以上の難聴が72時間内に生じたもの。ただし,低音障害型感音難聴や他覚的聴力検査で機能性難聴と診断された例は除外する。難聴の改善・悪化の繰り返しはなく,一側性の場合が多いが,両側性に同時罹患する例もある。
②耳鳴:難聴の発生と前後して耳鳴を生ずることがある。
③めまい,および吐気・嘔吐:難聴の発生と前後してめまい,および吐気・嘔吐を伴うことがあるが,めまい発作を繰り返すことはない。
④第Ⅷ脳神経以外に顕著な神経症状を伴うことはない。
鑑別診断が必要な疾患としては参考事項にある急性低音障害型感音難聴のほか,聴神経腫瘍,メニエール病,外リンパ瘻,ムンプス難聴,梅毒性内耳炎などがある。
治療に反応する時機は限られているため,早期に治療する必要がある。エビデンスレベルの高い治療はないため,経験的に効果があるとされている治療法を組み合わせて治療する。外来治療とするか入院治療とするかは症状の軽重,基礎疾患の有無,本人の希望などを考慮して選択する。
原因が不明であるため,いまだ明確な治療方法は確立されていないが,ステロイド,循環・血流改善薬,血管拡張薬,代謝改善薬などが用いられる。その他の治療法として内耳循環障害の改善を目的として,高気圧酸素療法を行うことがある1)2)。
聴力の回復は,発症後2週間以内にみられることが多く,1カ月を過ぎて回復する例は少ない。また聴力の予後は,治療開始が早く,難聴が軽いほどよく,高齢者に比べ若年者のほうがよい。低音障害型,水平型,谷型の予後はよいが,高音障害型や聾型の予後は不良で,めまいはないほうが予後はよい。これらの予後因子を考慮して治療の内容を組み立てる。
ステロイドを投与するにあたっては,日本耳鼻咽喉科学会が作成した「突発性難聴,顔面神経麻痺等のステロイド治療におけるB型肝炎ウイルス再活性化防止に関する指針」に従う。すなわち,ステロイド投与と同時にHBs抗原の検査を行い,HBs抗原が陽性の場合はB型肝炎を発症する可能性があるため,治療を継続しつつ肝臓専門医に紹介する。また,B型肝炎ウイルスの再活性化はステロイドの投与量より投与期間に大きく依存することから,HBs抗原が陰性でも2週間を超えてステロイドを全身投与する場合は,HBc抗体とHBs抗体を測定し,いずれかの抗体陽性の場合はHBs抗原陽性例と同様にB型肝炎を発症する可能性があるため,治療を継続しつつ肝臓専門医に紹介することが望ましい。
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