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自己免疫性脳炎[私の治療]

No.5059 (2021年04月10日発行) P.43

髙嶋 博 (鹿児島大学大学院医歯学総合研究科神経病学講座 脳神経内科・老年病学教授)

登録日: 2021-04-12

最終更新日: 2021-04-06

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  • 自己免疫性脳炎(autoimmune encephalitis)は,細胞表面の特定の受容体を障害するものとして,抗NMDA受容体抗体関連脳炎,抗VGKC複合体抗体関連脳炎などを含め10種類以上報告されている。一方で,橋本脳症のような病理学的に小血管周囲に炎症があり,びまん性に脳障害を引き起こすものや,傍腫瘍性のような細胞性免疫で,神経細胞が破壊性に障害されるものなどがある。抗体によるもの,および橋本脳症は治療が奏効することが多く,積極的な治療介入が望まれる。

    ▶診断のポイント

    抗NMDA受容体抗体関連脳炎は最重症型で,若年女性に好発し,統合失調症と間違うような精神症状で発症し,意識障害,重積痙攣,不随意運動がみられ,長期に呼吸管理を要する。卵巣奇形腫があることが多い。そのほかの抗体関連脳炎の症状としては,精神症状,錐体外路症状,記憶障害,幻覚,不随意運動,運動障害,感覚異常,痙攣発作など多彩にみられるが,抗NMDA受容体抗体関連脳炎よりも軽症である。辺縁系脳炎では記憶障害が主体で,運動障害をまったく示さない例もある。脳MRIは多くが正常であるが,海馬のT2高信号など辺縁系脳炎の所見を呈する場合がある。各種自己抗体の存在により診断するが,抗体検査は通常保険適用外であり,検査結果を得るのにかなりの日数が必要であるため,経過と症状から治療を優先するのが普通である。髄液一般所見は正常なことも多いが,細胞数や蛋白の上昇がみられることもあり,髄液中抗グルタミン酸受容体抗体は感度が高い検査である。

    橋本脳症は,実際にはかなり頻度の高い疾患であるが,その診断の難しさから正確に診断されていないことが多い。欧米のクライテリアでは,いくつかの特定の脳症状をもとに診断することになっているが,実際の神経症候はきわめて多彩である。急性または慢性でほぼすべての脳由来の症状を呈しうるので,原因不明の脳障害において抗Tg抗体または抗TPO抗体陽性であれば,ステロイド反応性をみるべきである。通常,ステロイドに反応がよいので,その治療反応性によって診断するのが現実的である。小脳失調が高率にみられると考えられているが,実際には,錐体外路や大脳の運動プログラムの遂行障害と思われる,力の持続ができないような筋力低下を伴うことが特徴のひとつである。また,感覚異常,思考能力の低下,視覚異常,不随意運動,パーキンソニズム,意識障害などもみられる。加えて,慢性脳炎全般に言えるが,易疲労と極端な疲労感を訴えることが多い。多様な神経症状と併せて,神経学的に不合理であるととらえられて,身体表現性障害などの心因性機序と誤診されることも多い。

    診断は,髄液や脳MRIに大きな異常がないことが多いため,甲状腺抗体の存在と免疫治療への反応性で診断する。画像的には,脳血流123IMP-SPECTでは異常をとらえうることが多く,αエノラーゼ抗体の特異度はかなり高い。甲状腺機能と本症の発症はあまり関係がない。

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