トキソプラズマ症は,トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)による人獣共通感染症である。血中マクロファージに寄生する急増虫体(tachyzoite)が,リンパ節,脳,筋肉などの組織細胞内に寄生すると嚢子(cyst)を形成して緩増虫体(bradyzoite)となる。ヒトへの感染経路は主に以下の通りである。
・ネコの糞便中に排出されたオーシスト(oocyst)が付着した手指や食物を介した経口感染
・中間宿主である動物(ブタ,ヒツジなど)の生(あるいは調理不完全な)食肉中cystを経口摂取することによる感染
・妊婦が初感染を受けた場合の虫血症(parasitemia)による胎児へのtachyzoiteの経胎盤感染
・輸血や臓器移植によるtachyzoite/cystの医原性感染
近年のわが国におけるトキソプラズマ感染状況は,20歳代では1%以下と類推できるが,年齢とともに陽性率は上昇し,40歳を超えると10%以上となる地域がある1)。妊婦では年間1000~1万人が妊娠中に初感染を起こし,130~1300人の新生児が先天性トキソプラズマ感染症を発症していると推定されているが,妊娠初期IgM陽性率は1.3~2.7%との報告もある2)。また,トキソプラズマ症はAIDS指標疾患のひとつであるが,日本国籍AIDS患者累計7587件(2017)に占めるトキソプラズマ脳症は117件(1.5%)である3)。
直接的診断法としては,脳脊髄液・羊水中のtachyzoite,生検組織のcyst内bradyzoiteを病理学的に観察するか,PCR法やLAMP法によるDNA診断を行う。
血清診断法としては,色素試験(Sabin-Feldman dye test),ELISA法,ラテックス凝集反応で,IgMやIgG特異抗体価を測定する。IgM抗体陽性とIgG抗体avidity低値は,妊婦の最近の感染を示唆する。臍帯血・新生児末梢血のIgM抗体が陽性であれば,先天性トキソプラズマ症と診断できる。
トキソプラズマ脳炎の画像診断として,頭部CT・MRI検査による周辺浮腫を伴うリング状占拠性病変は後天性トキソプラズマ症を疑い,新生児の脳室拡大・石灰化は先天性トキソプラズマ症の重要な所見である。
眼トキソプラズマ症では眼底検査が必須である。先天性トキソプラズマ症では中心性網脈絡膜炎による視野欠損が典型的である。
初感染妊婦,先天性感染児,顕性患者は積極的に治療する。
妊婦初感染の胎盤感染率は40~50%,さらにその約10%のみが児に臨床症状を示すことを説明する。さらに,妊娠中の早期発見・早期治療により胎盤感染率を下げ,発症率を下げられることを説明する。堕胎は第一選択ではなく,積極的な化学療法を勧める。
CD4数が100個/μL以下のトキソプラズマ特異IgG抗体陽性HIV感染者には,積極的なHIV治療とトキソプラズマ症の予防内服を勧める。
保険適用外や国内未承認薬の使用に関しては,「日本医療研究開発機構 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業:わが国における熱帯病・寄生虫症の最適な診断治療体制の構築」の研究班に問い合わせることができる4)。
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