お知らせ
呼吸困難［私の治療］
「呼吸が苦しい」と患者がしばしば訴えることがあり，主訴が「呼吸苦」と表されることがあるが，呼吸苦という主訴はなく，救急症候では医療用語で「呼吸困難」と定義づけられる。米国胸部疾患学会は呼吸困難を「呼吸が不快であるという主観的な体験であり，様々な強さや質的に異なる複数の感覚からなる」と定義している。
原因は，肺疾患や心血管疾患以外にも，感染，外傷，精神的，代謝内分泌，血液など多岐にわたる。呼吸は生命維持に重要であるため，急性の呼吸困難の主訴に対しては原疾患の診断前に緊急度に合わせて治療を先行させるかを判断することが重要である。
上気道閉塞，呼吸数の異常，重度の低酸素血症（SpO2＜90％），呼吸停止，呼吸様式の異常（下顎呼吸や奇異性呼吸），チアノーゼ，ショック，意識障害，低酸素血症による徐脈を認めたら，すぐに蘇生を開始する。
SpO2等の酸素化の指標やバイタルサインで初期評価を行い，緊急度，重症度が高そうであれば，酸素投与や静脈路確保，モニタリングを開始する。致死的呼吸困難を呈している場合には，心肺蘇生を開始する。時間的猶予があると判断したら，病歴や理学的所見をとり，検査を進める。
▶病歴聴取のポイント
【発症様式】
発症様式が「突然発症なのか？」「緩徐発症なのか？」は鑑別診断を行う上で有用な情報となる。突然発症の場合は，自然気胸や急性肺動脈血栓塞栓症などを疑わせる。食事中の突然発症は窒息・誤嚥も疑う。薬剤投与後に突然発症し，発赤・浮腫を伴えばアナフィラキシーショックを疑う。パニック障害などの心因的な問題による呼吸困難も突然発症するが，漠然とした不安感を伴うことが多い。
数時間の単位をかけて発症する場合は気管支喘息やうっ血性心不全を疑う。数日～数週間かけての発症は慢性閉塞性肺疾患（COPD）や貧血，悪性腫瘍関連などが鑑別される。
【病歴と随伴症状】
呼吸困難が「吸気性なのか？ 呼気性なのか？」「労作性なのか？」「夜間に発作性に起きているか？」「外傷後の出現ではないか？」などの状況を確認する。外傷後であれば肋骨骨折，気胸，肺挫傷，フレイルチェスト，血胸等を疑う。
呼吸困難の随伴症状（発熱，咳嗽，胸痛，咽頭痛など）の確認をする。咳嗽，発熱，排痰などが先行していれば，肺炎等の感染症を疑う。
胸痛とともに発症する呼吸困難では，持続性かつ鈍い内臓痛であれば急性冠症候群（ACS）や急性肺血栓塞栓症を疑う。
慢性心不全とCOPDは起坐呼吸，夜間に増悪するなどの類似の症状を呈するため実臨床でも鑑別に苦慮することが多い。また，COPD患者が心不全を罹患する率は20〜30％であると言われている。
労作時の呼吸困難は通常COPDと関連があるが，低心機能症例や，腹部からの横隔膜圧迫（腹水，肥満，妊婦女性）などでも生じる。
リスクファクター，既往歴，内服歴（内服変更や自己中断），喫煙歴（COPD，慢性気管支炎，気管支喘息，冠動脈疾患），家族歴，外傷歴，渡航歴，曝露歴（アスベスト，有害化学物質）などは鑑別に有用であるため，必ず聴取する。
▶バイタルサイン・身体診察のポイント
【バイタル】
致死的呼吸困難を呈している場合には，心肺蘇生を開始する。また，意識障害をきたす呼吸困難も重症と考え診療を行う。
他のバイタルサインとともに呼吸数や呼吸様式の観察をすることが大切である。呼吸補助筋を使用しての努力呼吸や奇異性呼吸，呼吸数の異常（24回以上，8回以下）は緊急性が高い。
意識レベルが保たれ，バイタルサインが安定していれば，身体所見，血液検査，心電図，画像検査を行い，鑑別診断を進める。
【身体診察】
視診として呼吸状態の観察は重要である。上気道閉塞，奇異性呼吸，陥没呼吸，呼気延長（気管支喘息やCOPDの増悪），吸気延長（上気道閉塞）を観察する。頸部視診は頸動脈怒張（うっ血性心不全，緊張性気胸，心タンポナーデ），胸郭の挙上の視診は，肺炎や気胸などの診断に有意義である。聴診器を使用しての胸部の聴診は，肺炎，心不全，気胸，気管支喘息などの診断に有用である。
四肢の浮腫は心不全や腎不全を，ばち指は慢性の経過を示唆するため，身体観察を要する。
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