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嘔気・嘔吐[私の治療]

No.5062 (2021年05月01日発行) P.46

藤井公一 (菅間記念病院救急科部長)

登録日: 2021-04-30

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  • 嘔気・嘔吐は腸閉塞や胃腸炎などの消化器系疾患に伴うことが多いが,鑑別疾患が非常に多く,中には心筋梗塞,敗血症,脳出血など重篤な疾患が潜んでいる場合があるため,原因の追求が重要である。安易に制吐薬のみで対処することのないように注意したい。

    ▶病歴聴取のポイント

    発症様式と持続期間:急性発症の嘔気と嘔吐は胃腸炎,膵炎,胆囊炎などの感染性疾患や薬の副作用を疑う。朝から症状が出現するのは妊娠,尿毒症,飲酒の影響や頭蓋内圧亢進の可能性があり,食後の嘔吐であれば胃の幽門狭窄や胃不全麻痺を疑う。強い痛みで嘔吐が誘発されることがある。慢性の嘔吐は基礎疾患に伴ったり,神経性食思不振症や心因性嘔吐などの精神疾患が原因である可能性がある。小児では周期性嘔吐症の可能性を考える。

    内容物:吐物に胆汁が含まれていれば小腸閉塞を示唆する。また,糞便は遠位小腸や大腸閉塞でみられる。消化不良の食物の逆流はアカラシア,食道狭窄およびZenker憩室などの食道疾患を考える。

    随伴症状:腹痛があれば,まず腸管の閉塞性疾患を考える。発熱や下痢があれば感染性腸炎の可能性が高い。頭痛,めまいや神経学的異常所見は,脳血管障害や脳腫瘍などの中枢性疾患による頭蓋内圧亢進を示唆する。その他,化学療法の施行歴,アルコールや毒物の摂取の有無,鎮痛薬や抗精神病薬の過量服薬および一酸化炭素への曝露なども原因となることがあるため,詳細な病歴聴取が診断に有用である。

    ▶バイタルサイン・身体診察のポイント

    頻脈,起立性低血圧,皮膚のツルゴール低下,粘膜の乾燥は脱水を示唆する。発熱は感染性疾患や肝炎に伴う。意識状態には,常に注意を払う。

    腹部を詳細に診察する。腹部膨満,腸蠕動音の消失や金属音の聴取は腸閉塞を示唆し,ヘルニアや手術痕がないかを確認する。圧痛の部位や程度で虫垂炎や胆囊炎や腸管穿孔などを推定できる。頻回の嘔吐ではマロリー・ワイス症候群をきたし吐血することがある。また,特発性食道破裂は嘔吐が誘引で起こることが多いので注意する。

    眼振は良性発作性頭位めまい症(BPPV)や前庭神経炎などの内耳疾患および小脳出血などで出現する。眼底検査によるうっ血乳頭は,脳腫瘍や脳出血による頭蓋内圧亢進を示唆する。肺音,心音を聴診し誤嚥性肺炎や心疾患の合併に注意する。

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