ロコモティブシンドローム(運動器症候群)は,日本整形外科学会が2007年に提唱した新概念で,運動器の障害のために移動能力の低下をきたした状態を言う。社会の急速な高齢化に伴い,要介護者が増加しつつある現状を鑑み,運動器の障害を予防,早期発見・早期治療を国民に呼びかけることを目的としている。「ロコモ」と略し用いることも多い。概念提唱の背景には,要支援,要介護などの原因として運動器疾患の頻度が高いことがある。特に要支援については,関節疾患,転倒骨折が半数近くであることからも,要支援になる前の段階で,運動器の大切さを国民に広く啓蒙することで,要支援・要介護になる人を減らす,あるいはその進行を遅らせることを めざしている。
提唱当初より,運動機能低下の早い段階で気づけるように以下の7つの質問が提示されている1)。
①片脚立ちで靴下がはけない。
②家の中でつまずいたり滑ったりする。
③階段を上がるのに手すりが必要である。
④横断歩道を青信号で渡りきれない。
⑤15分くらい続けて歩くことができない。
⑥2kg程度の買い物(1リットルの牛乳パック2個程度)をして持ち帰るのが困難である。
⑦家の中のやや重い仕事(掃除機の使用,布団の上げ下ろしなど)が困難である。
7項目のうち1つでも該当すればロコモが疑われる。
ロコモの程度を評価するために,3つのロコモ度テストがある。
①下肢筋力判定方法:「立ち上がりテスト」
②歩幅判定方法:「2ステップテスト」
③身体状態・生活状況判定方法:「ロコモ25」
3つのテスト結果のそれぞれ臨床判断値が決められており,ロコモ度1,ロコモ度2,ロコモ度3が判定される。
整形外科専門医などの専門家が,移動機能低下が始まっていると判断する段階である。「立ち上がりテスト」はどちらかの脚で40cmの高さから立つことができない,「2ステップテスト」の値は1.3未満,「ロコモ25」の得点は7点以上,の状態で,年齢にかかわらず,これら3項目のうち,1つでも該当する場合,「ロコモ度1」と判定する。
整形外科専門医などの専門家が,移動機能の低下が進行していると判断する段階で,「立ち上がりテスト」は両脚で20cmの高さから立つことができない,「2ステップテスト」の値は1.1未満,「ロコモ25」の得点は16点以上,の状態で,年齢にかかわらず,これら3項目のうち,1項目でも該当する場合,「ロコモ度2」と判定する。
また,ロコモ度2の状態が進むと「フレイル」へと進行すると考えられ,新たに「ロコモ度3」が設定された。「ロコモ25」で24点以上,「立ち上がりテスト」で両脚30cmができない,「2ステップテスト」で0.9未満,のどれかを満たすものであり,身体的フレイルになっている段階である(2020年より新設)。
「ロコモ度2」以上の場合は専門外来への受診が望ましい。
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