株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

AIを活用した心電図解析ソフトの可能性と今後(田村雄一 国際医療福祉大教授、(株)カルディオインテリジェンスCEO)【この人に聞きたい】

No.5069 (2021年06月19日発行) P.14

登録日: 2021-06-16

最終更新日: 2021-06-16

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

解析の根拠を説明できる
AIを活用した心電図解析ソフトで
心房細動の診断をサポートしたい

 

たむら ゆういち:慶應義塾大学医学部卒業。同大助教、パリ大学フランス国立肺高血圧症センター研究員などを経て現職。2019年に医療ベンチャー「カルディオインテリジェンス」を設立、代表取締役CEOに就任。日本循環器学会認定循環器専門医。

国内の心房細動患者は約100万人とされており、潜在的患者も同数程度存在するといわれる。心房細動は脳梗塞のリスクであり、発見しにくい“隠れ心房細動”の検出は大きな課題となっている。非専門医であっても的確な不整脈診断を可能にするツールとして注目される「AI心電図解析ソフト」を開発した国際医療福祉大教授の田村雄一氏(カルディオインテリジェンスCEO)に話を聞いた。

東日本大震災で医療ICTの有用性を実感

─医学部教授として循環器診療に日々携わりながら、AIを活用した医療機器の開発を手掛けることになった経緯を教えてください。

医療ICTを活用した医療サービスの有用性を強く実感したのは、2011年の東日本大震災がきっかけでした。被災地のライフラインが寸断される壊滅的な状況の中、Twitter上で医療機関の情報を拡散したり、在宅酸素や医薬品がどこで入手できるかといった情報を提供したりすることがとても有効でした。そこでまず私の専門である肺高血圧症の患者さんに対し、2016年から遠隔診療の枠組みで診療を開始することにしたのです。診察に必要な心電図や酸素飽和度のデータが患者さんからスマートフォンに届くような仕組みを構築しましたが、実臨床で運用していくうちに、これを患者数の多い疾患で運用するには、自動診断やAIを活用した医療機器が必要だと感じました。

そうした経緯があって起業することを決意し、高校の同級生のAI専門家との共同研究で、2000人の心電図波形を基に心房細動を自動解析し医師の診断を強力にサポートするアルゴリズムの開発に取り組むことになったのです。

─先般、心電図解析ソフト「SmartRobin」を上市されましたが、仕組みについて教えてください。

ホルター心電図などの心電図データをクラウドサーバーに送信すると、上室性期外収縮や心室性期外収縮、RR間隔などを解析し、不整脈が発生していると考えられる時間帯を示すソフトウエアで、2020年11月に医療機器認証を取得しました。

今後はAIが解析の根拠をプレゼンテーション

─開発で重視したポイントは。

実地医家の先生に広く使ってもらうには、診断にいたる根拠をしっかり説明することが大切です。今後は解析結果だけではなく、AIがどの部分の波形を不整脈と判定したのか、医師が確認できる機能を実装していきます。内科医の先生は循環器が専門でなくても「ここですよ」と指摘すると「そうですね」と理解する能力は基本的に持っているので、見るべきポイントをプレゼンテーションする機能が重要だと考えています。スピード感を持って社会実装していくために、コモンな心房細動の診断に特化して開発を進めました。

─既存の心電図解析技術との違いはどこにあるのでしょうか。

心電図は100年以上の歴史があります。電気的な波形で構成されていて、取得できるデータ量も多いので本来は機械学習に向いている領域にもかかわらず、21世紀に入っても自動判読の技術はあまり進化していません。中でも長時間測定した心電図波形から不整脈を読み取る判読技術は、機械学習の苦手とする分野といえます。ST上昇やRR間隔などそれぞれの波形異常をフローチャート式にアルゴリズム化することは比較的簡単ですが、数十時間にも及ぶ心電図の中から健常者にも起こりうる波形の乱れと心房細動による乱れを区別するアルゴリズムを開発するのはとても難しい技術です。

また現在開発中の“隠れ心房細動”の検出AIは新しいディープラーニングにより長時間の心電図から専門医でも見逃してしまいがちな微細な兆候を発見することができます。SmartRobinは不整脈の検査を広く普及させることを重視しているので、ISO認証の汎用波形形式を用いることで特定の心電計に依存せず汎用的に使用できるソフトとして開発しました。

実証実験では30%に心房細動を検出

─市場への展開はいつごろになるのでしょうか。

SmartRobinについては現在、埼玉県のクリニックで半年間にわたる実証試験を実施しています。実際の医療現場で運用したときに、医師や看護師の業務フローがどう変化するか、これまで使用していたSDカードと比較した場合の所要時間や作業的な負担などをフィードバックしてもらいながら改良を進め、今年11月をメドに拡販を開始する予定です。

まだ数十例のデータになりますが、心電図検査をした患者さんのうち約30%に心房細動が見つかっています。症状を訴えて外来に来た患者さんでも、心電図をとってみると異常が見つからず、発作性心房細動が見逃されているケースが少なくありません。24時間なり1週間なりフォローをすることが大切になります。今後、クリニックの中で隠れ心房細動の診断まで完結できれば、さらに多くの患者さんに早い段階で治療を行うことが可能になります。実証試験の途中ではありますが、現段階で結果に手ごたえを感じています。

隠れ心房細動を発見する大きなメリットは、脳梗塞の予防効果にあります。私どもは24時間のホルター型心電図検査の結果から、検査後1週間以内に心房細動が起きる可能性のある兆候を検出するAIを開発中で、治験を行った後に2年後の承認申請を目指しています。

「潜在患者が多い」「診断が難しい」一方で「治療法がある」という心房細動のような疾患に、非専門医の実地医家の先生が自信を持って取り組んでもらうことができるよう、さらなる機能と使い勝手の向上を図っていきたいと考えています。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

公立小浜温泉病院

勤務形態: 常勤
募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
勤務地: 長崎県雲仙市

公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top