器質性の痛みは前回(No.5065)解説した侵害受容性疼痛と今回解説する神経障害性疼痛(以下,神経痛)に分類される。
神経痛は,しびれ,電撃痛,ちくちく,ピリピリ,ビリビリあるいはジリジリといった“オノマトペ”で表現されることが多く,さらに同じ責任病巣で説明できる運動麻痺を伴っていれば,侵害受容器ではなく,神経線維または神経細胞そのものが障害されている根拠となる。幸い神経痛は神経走行を理解していれば解剖学的にアプローチできるので,侵害受容性疼痛の鑑別よりも認知負荷は小さい。感覚神経を末梢から中枢へたどりながら鑑別を進めてみよう(図1)。
末梢神経障害は症状の分布から単神経障害,多発神経障害,多発単神経障害のいずれかを考える。
物理的な絞扼や圧迫で生じる一本の末梢神経障害で,症状の局在(図2)と,絞扼部位圧迫や叩打による症状誘発(トリガーポイントまたはTinel徴候)が診断の参考になる。
手根管症候群は中年女性が手指の疼痛・しびれを訴えたときに最初に想起すべき病態である(☞コラム:手根管症候群の運動症状)。全身疾患に合併(表1)することが多いために単神経障害ではあるが両側発症も少なくない。ちなみに高齢者が片側手指のしびれを訴えた場合は,先に頸椎症を鑑別する。
手根管内圧上昇による正中神経圧迫がその病態であり,内圧が上昇する手関節屈曲位や伸展位(前者はPhalen test,後者はreverse Phalen test),あるいは絞扼部位の圧迫や叩打で症状が誘発される。睡眠中も屈曲位となりがちなので夜間や朝方に悪化し,手を振ることで内圧が下がり症状が軽減する特徴がある(flick sign:下イラスト)。
正中神経掌側枝は手根管の外を通過するため,手根管症候群では母指球部分はスペアされる。母指球部分を含む痛みの場合は,より近位で正中神経が絞扼される回内筋症候群を考える。
尺側手根部(Guyon管)による絞扼が知られている。第四指の片側の感覚障害は,正中神経障害と同様に診断の役に立つ。
運動障害(下垂手)として発症し,感覚障害を訴えることは少ない。
鼠径靱帯辺りでの肥満,妊娠,タイトな下着やズボンなどの圧迫により,大腿外側部(ズボンのポケット辺り)に感覚異常を生じる。
足関節内果後下方の屈筋支帯下トンネルで圧迫され,踵を含まない足底痛を生じる(図4)。足首の背屈・外返しテスト(dorsiflexion–eversion test)が有用である(図5)。
足首を最大に背屈・外返しすることで,症状を誘発させる。