赤痢菌(Shigella species)の感染により発症する腸管感染症であり,大腸が主な病変となる。高熱,激しい腹痛に続いて水様性の下痢,粘血便をきたすのが特徴である。赤痢菌はヒトが主な保有生物であり,患者や保菌者の便中の赤痢菌に汚染された食物・水による経口感染が主な感染経路である。感染症法で3類感染症に指定されており,診断した場合には直ちに最寄りの保健所を通して都道府県知事に報告する必要がある。
衛生状況の改善により報告数は減少しており,2010年以降はおおむね年間100人以下で推移している。また,そのうちの半数程度を輸入症例が占める。赤痢菌は胃酸に強く,非常に少ない菌量で感染が成立するため,国内でも集団食中毒,保育園や福祉施設での集団発生が散発しており,注意が必要である。
赤痢菌の感染後,1~7日間(平均3日間)の潜伏期間の後に発症する。典型例では高熱,食欲不振,全身倦怠感から始まり,水様性下痢を経た後に粘血便を呈する。しぶり腹(便意をもよおすが便が出ない,あるいは少量のみという状態)をきたすのが特徴的である。
確定診断は,便検体からの赤痢菌の検出による。便検体の粘液部分から最も培養されやすいとされる。SS(Salmonella-Shigella)寒天培地は,Shigella属やSalmonella属などの乳糖を分解しない細菌の検出に有用な選択培地である。
Shigella属は,S. dysenteriae(serogroup A),S. flexneri(serogroup B),S. boydii(serogroup C),S. sonnei(serogroup D)の4種に分類され,それぞれさらに型抗原による血清型にわけられる。S. flexneriのみ群抗原でさらに亜型にわけられる。
治療の基本は,脱水の補正および抗菌薬投与である。下痢による水分喪失の補正は重要であり,多くの場合には経口補水で十分である。小腸型の腸管感染症と比較すると,重度の脱水になる可能性は高くない。止痢薬の投与は発熱や下痢,細菌排泄期間の延長をきたすため避けなければならない。
症状がある患者に対しては,抗菌薬の投与が推奨されている。抗菌薬投与により,下痢の頻度および期間の短縮(約2日間),発熱期間の短縮(約1日間),および細菌排泄期間の短縮といった効果が示されている1)。抗菌薬は,古典的にはフルオロキノロン系やマクロライド系,βラクタム系,ST合剤で治療されてきたが,薬剤耐性の報告が増加しており,地域ごとの薬剤感受性検査結果に基づいて選択する。多剤耐性菌が想定される場合には,感染症科へのコンサルテーションを行う。
治療期間は薬剤によって異なり,フルオロキノロン系やマクロライド系では3日間,ST合剤やβラクタム系では5日間である。またS. dysenteriae 1が起因菌の場合やHIVとの共感染の場合は5~7日間,菌血症を伴う場合には14日間の投与が必要である。
S. dysenteriae 1は志賀毒素を産生し,溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)をきたしうる。腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)では,抗菌薬の投与がHUSの頻度を増加させる可能性が指摘されている。赤痢菌とEHECでは志賀毒素の産生の制御系が異なっており,赤痢菌においては抗菌薬投与によるHUSの頻度増加を懸念する必要はないと考えられている。
無症候性保菌者については,抗菌薬曝露による赤痢菌の薬剤耐性獲得の問題があり,抗菌薬投与の適応は慎重に判断する必要がある。職業的に食品を扱っている人や,長期間の保菌によって周囲へ感染を拡大していると考えられる人については,抗菌薬投与が検討される。
残り841文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する