【open lung strategyが基本であり,従来の腹臥位療法と考え方は同じ】
新型コロナウイルス肺炎では,H型,L型というフェノタイプごとに異なる病態とそれに対する呼吸管理方法の提言がありました1)。この中で肺保護換気の観点から腹臥位も治療の選択肢として挙げられています。呼吸管理方法としての腹臥位療法は,1970年ごろより報告が出てきたものの予後に寄与するような報告はありませんでした2)。しかしながら,2013年のPROSEVA studyで重症ARDS(acute respiratory distress syndrome)患者の予後を改善するという発表がされ,脚光を浴びることとなりました3)。
腹臥位の最大の利点は肺に対する重力の変化です。このことで以下の呼吸への生理的変化が起きます。具体的には,①換気血流比の改善,②臓器による圧迫解除,③ドレナージ効果が挙げられます。
①換気血流比の改善
仰臥位では背側に無気肺が形成されますが,腹臥位にすることで背側肺胞が拡張しやすくなります。一方,血流は重力の影響を受けないとされています。これによって換気血流比を改善させます。
②臓器による圧迫解除
心臓や腹部臓器により,心臓背側に位置する肺の圧迫や横隔膜の運動制限が起きて無気肺を形成しやすい状態となります。腹臥位にすることでこれらの臓器の圧迫を解除し呼吸に対して有利に働きます。
③ドレナージ効果
新型コロナウイルス肺炎では,エアロゾルの周囲への曝露の観点から加温加湿回路を用いることや気管支鏡での吸痰ドレナージが困難なケースが多くなります。加湿が不十分となる上に,仰臥位では重力の作用で分泌物が背側に溜まりやすくなります。体位ドレナージの一環として腹臥位を行うことによる痰の移動に伴い,吸痰を補助する効果が期待できます。
腹臥位にすることは循環に対する影響もあります。腹部圧迫によって右心系への前負荷が増加し,無気肺の解除に伴い肺血管抵抗が低下することで右心系の後負荷軽減につながります。その結果,左心系への前負荷の増加につながり心臓への省エネ効果になるかもしれません4)。
近年,P-SILI(patient self-inflicted lung injury),VILI(ventilator-associated lung injury)など人工呼吸患者における呼吸障害が広く叫ばれるようになっています5)。その中で腹臥位は先に挙げた利点により,肺胞を開存させた状態を保持し,できるだけ少ない圧補助で換気を行うことで肺の過膨張を避け,肺保護換気の一端を担う1つの呼吸管理方法としての位置づけを確固たるものとしつつあります。
【文献】
1)Gattinoni L, et al:Intensive Care Med. 2020; 46(6):1099-102.
2)Bryan AC, et al:Am Rev Respir Dis. 1974;110(6 Pt 2):143-4.
3)Guérin C, et al:N Engl J Med. 2013;368(23):2159-68.
4)Jozwiak M, et al:Am J Respir Crit Care Med. 2013; 188(12):1428-33.
5)Goligher EC, et al:Intensive Care Med. 2020;46 (12):2314-26.
【回答者】
小松聖史 藤田医科大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座
西田 修 藤田医科大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座教授