【腎障害を有する患者では,相互作用で肝代謝も阻害されると,腎臓と肝臓の両方の消失経路が阻害されるため,血中濃度が顕著に上昇し出血リスクが増大することが懸念され,特に注意が必要】
DOACの利点のひとつに,ワルファリンと比べて食事の影響や併用薬による相互作用が少ないことが挙げられます。しかし,ワルファリンと異なり,相互作用で薬効が変動しても,その影響を血液検査でモニターするのは困難なため,相互作用には十分に注意する必要があります。また,DOACはワルファリンに比べて腎排泄の寄与が高いため,腎障害を有する患者では,相互作用で肝代謝も阻害されると,腎臓と肝臓の両方の消失経路が阻害されるため,血中濃度が顕著に上昇し出血リスクが増大することが懸念され,特に注意が必要となります。
表1には,欧州不整脈学会のDOAC使用実践ガイドにおけるDOACの薬物動態学的特徴,相互作用および減量基準について示しました1)。DOACの代謝や排泄に関与しているシトクロムP450(CYP)3AおよびP-糖蛋白が阻害されると,血中濃度が上昇し出血のリスクが高まります。一方,これらが誘導されると,血中濃度が低下し血栓塞栓症が誘発される危険があります。
ダビガトランは,活性のない前駆体であるダビガトランエテキシラートとして経口投与され,小腸で吸収された後に活性代謝物へ変換され薬効を発揮します。経口投与時の生物学的利用率は約3~7%と低い薬剤です。ダビガトランエテキシラートは小腸における汲み出し(排泄)トランスポーターであるP-糖蛋白の基質であるため,その阻害薬や誘導薬となる薬物の影響を受けます。活性代謝物の腎排泄の寄与は約80%であり,CYPによる代謝の寄与はほとんどありません。
リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンの代謝や排泄には,CYP,P-糖蛋白,腎排泄が関与していますが,その寄与率は表1に示した通り薬剤ごとに異なります。
薬剤と相互作用を引き起こす可能性のある食材としては,グレープフルーツやセントジョーンズワートが知られています。セントジョーンズワートは,肝臓および小腸でCYPやP-糖蛋白を誘導し,基質となる薬物の血中濃度を低下させます。
DOACにおいても,添付文書や使用実践ガイド1)においてセントジョーンズワートとの相互作用について注意喚起がなされています。一方グレープフルーツは,小腸においてCYPやP-糖蛋白を阻害し,それらの基質薬の血中濃度を上昇させます。グレープフルーツとの併用によりDOACの血中濃度が上昇する可能性はありますが,その影響の程度は現在のところ不明です。
併用薬との相互作用によるリスクが高く,併用薬の変更・中止が難しいと考えられる場合には,DOACの減量や中止,他剤への変更について検討することが必要です。
【文献】
1) Steffel J, et al:Eur Heart J. 2018;39(16):1330-93.
【回答者】
白根達彦 東京大学医学部附属病院薬剤部