【口,鼻,創傷部,また各種カテーテル等が侵入門戸となる】
感染症は,6つの要素の連鎖が形成されたときに成立するとされています。具体的には①病原体(感染症の原因となる微生物)→②感染源(微生物が生存できる場所)→③排出門戸(微生物が感染源を出ていくときの身体部位の開口部)→④感染経路(感染源から感受性宿主にうつるためのメカニズム)→⑤侵入門戸(微生物が感受性宿主に侵入する際に通る身体部位)→⑥感受性宿主(感染を起こすリスクのあるヒトや動物)が挙がり,手指に付着した微生物が人体に侵入するというのは④感染経路(接触感染)→⑤侵入門戸に相当すると思います。⑤侵入門戸としては,口,鼻,創傷部,また各種カテーテル(末梢ライン,尿道カテーテルなど)が挙がります。
医療従事者など手指を介した直接接触や,汚染されたものや環境表面を介する間接接触によってこれらの部位へ微生物が侵入する機会が増え,その結果として,創部感染やカテーテル関連血流感染症などが起こります。
微生物が保菌され,特に症状を起こさずにいる場合も多いですが,あとは,⑥感受性宿主の状況次第で感染症が成立すると考えます。これに関する詳細は,微生物学や免疫生物学の成書をご参照下さい。
薬剤耐性菌の保菌者も感染症を発症するリスクが高まることも報告されていますので,手指衛生で微生物の伝播を防ぐことは重要と言えます。ただ,通常用いられる速乾性擦式アルコール製剤では殺滅しないノロウイルスやクロストリディオイデス・ディフィシルなどは石鹸と流水による手洗いを選択する必要があります。
【参考】
▶ CDC:Guideline for Isolation Precautions: Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings. 2007.
▶ 国公立大学附属病院感染対策協議会, 編:病院感染対策ガイドライン 2018年版. じほう, 2018, p11-20.
▶ Tischendorf J, et al:Am J Infect Control. 2016; 44(5):539-43.
▶ Zervou FN, et al:Pediatrics. 2014;133(4): e1015-23.
【回答者】
渋江 寧 横浜市立みなと赤十字病院 感染症科部長・感染管理室室長