股関節を形成する大腿骨や寛骨臼の骨形態異常のため,反復動作によって関節軟骨や関節唇などの股関節周辺構造に微細な損傷や変性をきたす疾患である。
鼠径部痛,股関節痛,股関節可動域制限(特に内旋制限)。
股関節インピンジメントでは,特に股関節の屈曲や内旋の最終可動域において再現性のある鼠径部痛が生じる例が多いことから, 前方インピンジメントテストは診断上有用な徒手検査である。
前方インピンジメントテスト:他動的な股関節屈曲100°での内転・内旋で疼痛が出現した場合には陽性と診断する。
単純X線撮影やCTを行い,寛骨臼や大腿骨頸部の骨形態異常を有するか否かを診断する。また,MRI(放射状を含む)を行い関節唇損傷の有無・程度を評価する。
寛骨臼に骨形態異常があるpincer type FAI,大腿骨に骨形態異常があるcam type FAI,そしてpincer typeとcam typeが合併するmixed type FAIがある。cam type, pincer type, mixed typeいずれのインピンジメントにおいても一般に関節唇の損傷が認められる。関節唇損傷は,寛骨臼前上部が好発部位であるが,寛骨臼の後下部にも認められる例も報告されている。
*1:明らかな股関節疾患に続発する骨形態異常を除いた大腿骨-寛骨臼間のインピンジメント。
①CE角*2 40°以上。
②CE角*2 30°以上かつacetabular roof obliquity(ARO)0°以下。
③CE角*2 25°以上かつcross-over sign*3陽性。
正確なX線正面像による評価を要する。特にcross-over sign*3は偽陽性が生じやすいことから,③の場合においてはCT,MRIで寛骨臼のretroversion*4の存在を確認することを推奨する。
*2:単純X線両股関節正面像において,骨頭中心と寛骨臼硬化帯外側を結ぶ線と骨盤水平線に対する垂線のなす角。
*3:単純X線股関節正面像において,寛骨臼前壁縁と後壁縁が交差する所見であり,寛骨臼のretroversionを示唆する。
*4:後方開き。正常寛骨臼は前方開きである。
①CE角25°以上。
②主項目:α角*5(55°以上)。
③副項目:head-neck offset ratio*6(0.14未満),pistol grip変形*7,herniation pit*8(主項目を含む2項目以上の所見を要する)。
*5:単純X線大腿骨頸部側面像において,骨頭中心と頸部最狭部中心を結ぶ線と,前方の骨頭頸部移行部の曲率変化点と骨頭中心を結ぶ線とのなす角。
*6:大腿骨頸部側面像において,頸部軸に平行骨頭前縁を通る接線と頸部最狭部前縁を通る接線との距離(OS)の骨頭径(D)に対する比率(OS/D)。
*7:単純X線両股関節正面像において,骨頭頸部移行部の外側縁が平坦化し,骨頭と頸部間のoffsetが減少する変形。
*8:単純X線両股関節正面像あるいは頸部側面像において,骨頭頸部移行部から頸部前外側に生じる小卵円形で硬化像に囲まれた骨透亮像(CTやMRIによる評価も可)。
以下の画像所見を満たし,臨床症状(股関節痛)を有する症例を臨床的にFAIと判断する。
①前方インピンジメントテスト陽性(股関節屈曲・内旋位での疼痛誘発を評価)。
②股関節屈曲内旋角度の低下(股関節90°屈曲位にて内旋角度の健側との差を比較)。
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