片頭痛の病態には中枢神経と末梢神経の両方が関与すると考えられている
中枢神経の病態として皮質拡延性抑制(cortical spreading depression:CSD)が片頭痛における前兆に関与するとともに三叉神経系の活性化に関与する可能性が示唆されている
末梢神経として三叉神経が重要な役割を持つが,この三叉神経に感作が生じていれば,正常な血管拍動を拍動性の痛みとして感知するという考え方も出現してきている
片頭痛が慢性化する詳細な機序については明らかにされていないが,発作回数の増加は慢性化の重要な因子のひとつと考えられている
大脳や脳幹,特に中脳水道周囲灰白質(periaqueductal gray:PAG)に器質的変化あるいは機能的変化が生じ,疼痛の慢性化が進行していくことが推察されている
片頭痛の病態については血管説,神経説および三叉神経血管説の3説があるが,これらは現在,片頭痛のそれぞれの病態の一部をなすものではないかと考えられている。
3説のうち,最も古くから提唱されていた血管説は,片頭痛発作のすべての経過が頭蓋血管の反応性の異常のみで生じるとするものであった。血管説によれば,片頭痛で生じる拍動性の頭痛は,脳血管の異常な拡張によって起きると考えられていた1)。しかし,片頭痛発作中に脳血流の変化を測定した結果から,血管拡張と頭痛発現が時間的に一致しないことが明らかにされ,片頭痛の病態を血管反応性の異常のみで説明することは困難であると認識されるようになった2)。
そこで,片頭痛においてCSDのような大脳皮質の神経細胞の過剰興奮がまず初めに生じるとする神経説の考え方が出現した。CSDで片頭痛の前兆を説明することはできるが,片頭痛における頭痛を説明することは困難であった。
このため,脳血管周囲や硬膜に分布する三叉神経の関与が考えられるようになった。脳底部の主幹動脈から大脳皮質表面の軟膜動脈および硬膜血管には三叉神経節由来の無髄神経線維が分布し,頭蓋内の痛覚を中枢へ伝える働きをしている。
Moskowitz3)は,三叉神経節に電気的または化学的刺激を行うと,硬膜に無菌性炎症である神経原性炎症が生じることを明らかにし,片頭痛発作との関連性を指摘し,三叉神経血管説を提唱した。また片頭痛発作では,何らかの刺激が硬膜の血管周囲に存在する三叉神経の軸索に作用し,神経終末からsubstance P(SP)やcalcitonin gene-related peptide(CGRP)などの神経伝達物質でありかつ血管作動性物質である神経ペプチドの放出が起こることが知られている。
その結果,硬膜周辺では肥満細胞の脱顆粒や血管透過性の亢進,血漿蛋白の流出,血管拡張などが惹起され頭痛が生じる,と考えるのが三叉神経血管説である。近年では,片頭痛の病態にはCSDと三叉神経系の感作が関与する可能性が考えられている。
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