1 五十肩とは?
・全人口の約5%程度に発症すると言われており,そのうち約2割は両側とも発症する
・中高年期に好発する,肩関節周辺の疼痛と運動制限をきたす一連の症候群であり,診断名ではない!
・「五十肩」以外にも,肩関節周囲炎や肩関節拘縮,凍結肩など,診察した医師によって異なる診断名をつけられることがあり,混乱を招きがちである
・「五十肩」と呼ばれている症候群の中から一次性肩関節拘縮,すなわち「凍結肩」を正確に診断して治療することが,肩関節専門医の役割である
2 凍結肩治療の実際
病期によって,治療法が異なる。
【炎症期(freezing phase):痛くて腕が挙がらない時期】
・消炎鎮痛剤や精神安定剤の内服
・肩甲上腕関節(GHj)内へのステロイドまたはヒアルロン酸の注射
・局所麻酔を混入して,疼痛が軽減したかどうかを確認するブロックテスト
・肩関節周囲筋へのリラクゼーション・マッサージなど,mildなリハビリテーション
〔痛みを伴うような激しい関節可動域(ROM)訓練は避けるべきである〕
※以上の治療に抵抗する場合,サイレント・マニピュレーションや鏡視下肩関節授動術を検討
【拘縮期(frozen phase):あまり痛くないが腕が挙がらない時期】
・適宜温熱療法などの物理療法を加えたROM訓練
・疼痛がある場合には,適宜GHj内へのステロイドまたはヒアルロン酸の注射も考慮
【回復期(thawing phase):腕が徐々に挙がり始めてくる時期】
・積極的なROM訓練で可動域を拡大
・更衣や結髪動作,結帯動作などの日常生活動作ができるようになるための実践訓練
3 サイレント・マニピュレーションの実際
・患者を半側臥位とし,頸部斜角筋隙にエコーのリニア型プローブを当て,平行法でC5およびC6神経周囲に局所麻酔薬を約15cc注入する。10~15分後に,ブロック側の肩と肘の自動屈曲ができなくなったことを確認して,本編の手順に沿って行う。
伝えたいこと…
俗に五十肩と呼ばれる「凍結肩」は,まず診断が大事である。中高年者の病態は必ずしも1つの疾患名で説明できるとは限らず,多くの病態が同時に存在していることも少なくない。そのため肩関節由来の疾患だけでなく,頸椎疾患などの神経障害の合併を常に考慮に入れておかなければならない。
その上で,保存加療に抵抗する凍結肩の患者に対してサイレント・マニピュレーションを考慮することになるが,これは決してオールマイティーな治療法というわけではない。確かに,入院の必要がなく外来の処置室などで行うことができ,忙しい患者にも勧めやすいreasonableな治療法であるが,実際に施行してみると,非常に効果がある症例とそうでもない症例があることに気づくだろう。
筆者もこれまでに多くのサイレント・マニピュレーションを施行してきたことで,初めて気づいたことも多いが,詳しくは特集本編を参考にされたい。
本稿が皆様の日常診療の一助になれば幸いである。