小児の急性心筋炎は,ウイルス感染を誘因とすることが多く,乳児期と10歳代半ばを好発年齢とし,組織学的には心筋の炎症細胞浸潤と心筋壊死を特徴とする。また,発病初期に心肺危機に陥るものを劇症型心筋炎と呼び,特に体外補助循環を要する場合を指すことが多い。わが国では,本疾患の生存率は75%で,生存者の8割は後遺症なく退院した一方で,16%が重篤な後遺症を残したと報告されている。
初期には発熱,悪寒,全身倦怠感や消化器症状(食思不振,悪心・嘔吐,下痢,腹痛)などを主訴とすることが多く,感冒や胃腸炎と診断されることも少なくない。時間経過とともに胸痛や動悸,失神,ショックを呈して循環不全の徴候が明らかとなる。
頻脈や脈不整,血圧低下,頻呼吸などのバイタルサインの異常に加え,顔色不良,奔馬調律,浮腫,末梢冷感などを呈する。これらの心不全徴候を見逃さずに次の評価につなげることが肝要である。
血液検査で心筋逸脱酵素(CK,CK-MB,トロポニン)の上昇,心電図でST-T異常や不整脈,心臓超音波検査で心機能低下,心筋肥厚,房室弁逆流および心囊水貯留などを認める。急性期には胸部X線で心拡大や肺うっ血を伴わないこともあり,これらの所見がないことをもって本疾患の除外はできない。
本疾患が疑われる場合,急激に心原性ショックに移行したり,致死性不整脈を惹起したりする可能性があるため,可能な限り早期に体外補助循環が実施可能な施設に搬送する。搬送中に急変することも稀でないため,蘇生に必要な準備を整えておく必要がある。ウイルス性の急性心筋炎に対してコンセンサスの得られた特異的治療はなく,治療の主眼は心機能の回復が得られるまで体外補助循環や強心薬,抗不整脈薬などを併用し,臓器障害をきたさないように循環を維持することにある。通常の場合は,1~2週間以内に心機能の回復が得られて治療を緩和できることが多いが,炎症が慢性化して拡張型心筋症に類似した病態を呈する場合には,補助人工心臓や心臓移植の適応となりうる。
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