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佐藤泰然(4)[連載小説「群星光芒」226]

No.4814 (2016年07月30日発行) P.72

篠田達明

登録日: 2016-09-16

最終更新日: 2017-01-23

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  • 「おぬしは田安斉匡卿の側妻の窮地を救ったことがある。田安卿は将軍家慶公と誼を通じる仲なのでこの筋を辿るがよい」

    矢部駿河守はそういって佐藤藤佐に教えた。

    藤佐は酒田の豪商本間家に事情を伝えてかなりの金品の提供をうけた。これをもって以前、窮地を救ったことのある田安卿の妾にとりなしを頼むと、果して田安卿から家慶公へトントン拍子に話が運び、酒井家別邸召し上げは差し止めとなった。安堵した藩主忠器は庄内藩へ国入りした際、酒田の本間家別荘に立ち寄って尽力を謝した。本間家主人も一件落着を寿ぎ、珍味の料理と大勢の芸妓で国入りの一行を歓待した。藩主の侍女たちにも布帛を贈ったから、悦んだ侍女たちは周囲の者に吹聴した。

    これを伝え聞いた老中水野忠邦は「国中が倹約に励んでいるのに酒井家の奢侈はなんたる曲事じゃ」と声を荒げて怒った。

    そこまで話した江戸藩邸留守居役の大山庄太夫は憤懣やるかたなしといわんばかりに鼻翼をふくらませた。

    「このたび突如発令された三方領知替えの台命は執念深い忠邦侯のわが殿への意趣返しにほかなるまい」

    父の藤佐とともにその場に陪席した佐藤泰然もまったくその通りだと思った。

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