急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM)は,中枢神経における急性の炎症性脱髄疾患であり,感染症後もしくはワクチン接種後などに脳症を伴う散在性の中枢神経病変の出現が特徴である。病理学的には中枢神経における血管周囲のリンパ球浸潤,浮腫状変化,静脈周囲の脱髄を特徴とし,自己免疫学的機序による発症が考えられている。
下記の3つの項目を満たすものをADEMと診断するのが一般的である。
①中枢神経疾患の既往がない多巣性の炎症性脱髄疾患であること。
②発熱で説明できない脳症があること。
③脳MRIで特徴的な画像を認めること。
再発例では,髄鞘蛋白のひとつであるミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(myelin oligodendrocyte glycoprotein:MOG)に対する血清自己抗体(抗MOG抗体)が認められることが多く,MOG抗体関連疾患(MOG-IgG associated disorders:MOGAD)に分類される。
鑑別診断として,多発性硬化症,視神経脊髄炎スペクトラム障害,自己免疫性脳炎,脳腫瘍(悪性リンパ腫,神経膠腫など),多発脳膿瘍などが挙げられるが,これらを鑑別しADEMと診断したら,速やかにステロイドパルス療法を適用するべきである。脳腫瘍との鑑別にはしばしば脳生検が実施される。ADEMの決定的な診断マーカーは存在しないため,確定診断は困難なことが多いが,抗MOG抗体が陽性のMOGADは小児において発症時にADEMと診断されることが多い。
多くのADEMは急性期のステロイド反応性がよく,後遺症なくステロイドパルス療法で回復することが多いが,難治例に対しては血漿浄化療法や免疫グロブリン大量静注療法が適用される。ADEMは通常単相性であるが,抗MOG抗体陽性の再発例の再発予防にはプレドニゾロン5~15mg/日の内服が有効である。プレドニゾロン単独で再発抑制が困難な例にアザチオプリンなどの免疫抑制薬,免疫グロブリンの間欠投与,リツキシマブなどのモノクローナル抗体製剤等の併用の有用性が報告されているが1),いずれも保険適用外使用でありエビデンスも乏しく推奨度は弱い。
残り847文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する