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佐藤泰然(9)[連載小説「群星光芒」231]

No.4819 (2016年09月03日発行) P.68

篠田達明

登録日: 2016-09-16

最終更新日: 2016-10-20

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  • 「水野忠邦は常人よりはるかに根に持つ性癖がある。一旦狙われたらねちっこく追ってこよう。だが立ち向おうにも所詮こちらは蟷螂の斧じゃ。今更足掻いたとてどうにもならん。じたばたするだけ無駄骨じゃ」

    父の佐藤藤佐はそういって泰然の申し出に取り合わなかった。 泰然の頭にあったのは江戸からの脱出だった。行く先は老中堀田正睦が治める下総国佐倉城下(千葉県佐倉市)である。

    ――藩主の正睦侯は忠邦侯の厳しい質素倹約令に批判の声をあげ、庄内藩の転封阻止にも大きな役割を果された。江戸城の茶坊主に「西洋堀田」とあだ名された蘭癖大名でもある。

    くわえて泰然は佐倉藩家老の渡辺弥一兵衛と面識があった。弥一兵衛は文政の末頃に背中に大きな癰(カルブンケル)ができて苦しんだ。漢方医の治療ではかが行かず、泰然の医院に通うようになってめきめきとよくなり完治した。

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