胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome:TOS)は鎖骨,第1肋骨,前・中斜角筋から形成される胸郭出口の先天的・後天的な変形,およびその周囲の筋肉の発達・破格などが腕神経叢,鎖骨下動静脈を圧迫・牽引することにより上肢および肩甲骨周囲に痛み,しびれなどの症状を引き起こす疾患である。
病態は症状によって神経性TOS(全症例の約95%),静脈性TOS(約3%),動脈性TOS(約1%)に分類される。神経性TOSに関してはさらに圧迫型(約18%),牽引型(約8%),混在型(約74%)に分類されるという報告もある1)。
一般成人からオーバーヘッドスポーツ選手まで幅広い年齢層で認める。また,発症転機も非外傷性,外傷性,スポーツ活動など様々である。症状は頸部~指先まで多彩な上に,誘発テストの特異度は低く,確定診断が難しいが,詳細な問診と理学所見,画像所見から総合的に判断する。
TOSを引き起こす素因として,肋鎖間隙が狭い,前・中斜角筋間が狭い,神経血管周囲に異常な線維束が形成され神経血管束を圧迫していることが挙げられる。
外的要因として,上肢を挙上する動作を繰り返し行うこと(シャンプー,携帯電話の使用,つり革の使用など),姿勢不良,無理な腕や肩の筋肉トレーニング(バックプレス,ベンチプレスなど),挙上動作を繰り返すスポーツ(野球,バレーボール,バドミントン,バスケットボール,テニス,剣道など)が挙げられる。これらの動作が継続されることで,さらに胸郭出口付近の狭小化が進行し,腕神経叢,鎖骨下動静脈の圧迫・牽引が増悪し様々な症状をきたすと考えられる。
神経学的症状:上肢,肩甲骨周囲のしびれ・痛み,可動域制限,握力低下,筋痙攣。
血管症状:蒼白,冷え症,変色,腫脹,手のむくみ,易疲労感。
その他:頭痛,顔面痛,目眩,耳鳴り,立ちくらみ,息苦しさなど,多岐にわたる。
鎖骨上窩,斜角筋間隙,小胸筋部,quadrilateral space(四辺形間隙)の圧痛の有無。
Wright test:肩関節90°外転外旋位で橈骨動脈の拍動を認めるかどうか。
Roos test:肩関節90°外転外旋位で手の把握動作を繰り返し,上肢を保持できるかをみる。
肩関節不安定症がTOSを誘発する場合もあるため,肩関節の不安定性の評価も重要である。
胸部X線検査:頸肋など頸部周囲の破格の確認。
CT:下垂位,挙上位で撮像し肋鎖間隙の狭小化の有無をみる。また,理学所見で症状が重症と判断される場合は,挙上位で血管造影3DCTを行い,血管の圧迫の有無を確認する。
超音波検査:X線被ばくや造影剤による合併症もなく低侵襲であることから,当院では①鎖骨下動脈における収縮期最大血流速度(peak systolic velocity:PSV),②第1肋骨上での斜角筋三角底辺間距離(inter-scalene distance:ISD)を測定している。
ISDは,当院の無症候の野球選手の平均が10.2mmであった2)ことから,10mm前後が正常と考える。
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