前回(No.5090)と同様,表題について解説する。章立ては前回の「Ⅰ 日本語の多義性に基づく誤判断」「Ⅱ 患者自身の不正確な言葉の選択」「Ⅲ 言語化できない症状」に続く。
症例 66歳英国人男性:歩行中の両下肢脱力
2年半前より歩行中に両下肢に力が入らなくなる症状が出現した。10分程度歩いた後に両膝の力がぬけ,立ち止まると数分から15分ほどで軽快する。日英両国の様々な医療機関で精査するも原因不明1)。
歩行開始後に決まった時間で発症し,立ち止まると改善することから間欠性跛行が想起されるが,痛みやしびれなどの感覚障害を伴うはずであり,また回復までの時間が15分というのも長すぎる。そもそもひざまずいたり転倒したりすることはない点で真の脱力なのか疑問が残る。そこで脱力を「思ったように力が入らない」と解釈し,言語化困難な不随意運動を鑑別に挙げた。外来で歩かせたところ,10分ほどで症状が出現し,不随意運動は観察できなかったものの,一時的に筋緊張が高まる発作性労作誘発性ジスキネジア(paroxysmal exertion induced dyskinesia:PED)に矛盾しないと考えた。治療的診断目的のカルバマゼピン200mg/日で症状が半減し,300mg/日に増量した時点で消失した。
ジストニアやアテトーシスなどの不随意運動は持続性のイメージがあるが,発作性にも出現し,発作性ジスキネジアと総称される。運動誘発性の発作性運動誘発性ジスキネジア(paroxysmal kinesigenic dyskinesia:PKD)と発作性労作誘発性ジスキネジア(PED),運動とは無関係の発作性非運動誘発性ジスキネジア(paroxysmal nonkinesigenic dyskinesia:PNKD)と発作性睡眠誘発性ジスキネジア(paroxysmal hypnogenic dyskinesia:PHD)が知られている(表1)2)。小児~青年期に発症するが,壮年期以降例の報告もある。抗てんかん薬によって改善することが多いため,稀ではあるが本疾患を疑うことは臨床上重要である。