ベル麻痺は明らかな原因が特定できない特発性顔面神経麻痺である。その多くはHSV-1ウイルスの感染による神経炎が原因と考えられている。顔面神経は細い骨管中を走行しており,炎症性の腫脹により絞扼される。そのため顔面神経の虚血が起こり,その虚血はさらに神経の腫脹を増悪させる。この腫脹・絞扼・虚血の悪循環が神経障害を増悪させ,変性へと進行する。
特発性末梢性顔面神経麻痺の診断は,視診による顔面神経麻痺の確認により行う。
耳下腺腫瘍やHunt症候群,外傷(側頭骨骨折)や中枢性病変などを除外する。
重症度の決定および予後予測が治療方針決定に必須である。これには柳原法やHouse-Brackmann法によるスコアリング,味覚試験や涙液分泌試験,アブミ骨筋反射検査に加え,神経興奮性検査(NET)やENoG検査などが必要となる。
ウイルス性神経炎の急性期にはウイルスの排除のため抗ウイルス薬が投与される。また,神経線維の腫脹・絞扼・虚血の改善のため,ステロイドによる神経浮腫の抑制や顔面神経管開放による減圧(顔面神経減荷術)が適用される。メコバラミンや循環改善薬の有効性は立証されていないが,副作用も少ないため併用を考慮する。重症糖尿病などステロイドが用いにくい場合には星状神経節ブロックが推奨されている。慢性期には病的共同運動や拘縮の予防・治療のため,用手マッサージやボツリヌス毒素注射,リハビリテーションが適用される。残存した顔面神経麻痺に対しては形成外科的手術が行われる。
残り2,000文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する