【mRNAワクチンと比較すると血栓症発症の頻度は高く,1回目接種7~24日後に出現する。治療にはヘパリン以外の抗凝固薬と免疫グロブリンを使用する】
2020年12月に米国でファイザー社,モデルナ社のmRNAワクチンが承認され,英国においては同年12月30日にアストラゼネカ社とオックスフォード大学が共同開発したチンパンジーアデノウイルスベクターを用いたウイルスベクターワクチンが承認され,接種が進んできました。
こうした中で2021年4月にドイツとオーストリアから11例の血小板減少性血栓症が報告されました。9例がCVT,3例が腹腔内静脈血栓症,3例が肺塞栓症と診断され,6例は死亡したことが報告されました1)。以降,欧米から血栓症の副反応の報告が続いています。
これらの病態は,ヘパリン起因性血小板減少症に類似したものと考えられています。発症には血小板第4因子(platelet factor 4:PF-4)が関与します。PF-4は活性化された血小板から放出され,ヘパリンと結合することで血液凝固が促進します。PF-4とヘパリン複合体に対する抗体が産生されると血小板減少を引き起こす自己免疫疾患として知られていました。ヘパリンの使用と関連しないで,ワクチンによって誘発された疾患として,VITT(vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia,ワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症)と呼ばれています2)。
mRNA,ウイルスベクターワクチンでは,スパイク蛋白が細胞膜表面に発現され,細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte:CTL)が誘導されてくると,スパイク蛋白を発現した細胞は壊され,放出されたスパイク蛋白は血中に入ります。そして,血小板のアンジオテンシン変換酵素2(angiotensin converting enzyme 2:ACE2)と結合することで,血小板が活性化され,PF-4が産生されます。
血管内皮細胞には新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のレセプターであるACE2が発現しており,スパイク蛋白と結合して炎症反応が誘発され,血栓が形成されます。そして,血管内皮の障害により血管壁のプロテオグリカンが露出して,PF-4と結合します。この複合体に対する自己抗体が産生され,抗体と複合体の結合物は血小板のFc受容体に結合し,血小板活性化と同時に血小板減少をきたすと考えられています2)。
EudraVigilance-European databaseで公表されたファイザー社のmRNAワクチンとアストラゼネカ社のウイルスベクターワクチン接種後のVITTの頻度は,ファイザー社のmRNAワクチンでは100万件接種当たり33件,アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンでは151件でした。CVTと腹腔内静脈血栓症の頻度は,ファイザー社のmRNAワクチンでは100万件接種当たり4件,アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンでは30件で,死亡例ではそれぞれ0.4例と4.8例と報告されています3)。
米国では,ジョンソン・エンド・ジョンソン社のAdeno26ベクターワクチンのVITTの頻度が3.0例/100万件で,30~49歳の女性では頻度が8.8例/100万件に増加すると,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)が報告しています4)。
一般人口でのCVTの罹患率は,オランダの31~50歳女性では1.32~2.78例/10万人口/年と報告されています5)。VITTは,アストラゼネカ社のワクチン1回目接種7~24日後に出現し,若い女性に多いとされています。
最後に②についてですが,VITTの確定診断基準は,28日以内の発症で,血小板減少はベースラインの50%以下,PF-4抗体が存在することです。治療には,ヘパリン以外の抗凝固薬と,自己免疫応答を抑制する意味で免疫グロブリンが使用されています3)。
【文献】
1)Greinacher A, et al:N Engl J Med. 2021;384(22): 2092-101.
2)Kantarcioglu B, et al:Clin Appl Thromb Hemost. 2021;doi:10.1177/10760296211021498.
3)Cari L, et al:J Autoimmun. 2021;doi:10.1016/j.jaut.2021.102685.
4)Rosenblum HG, et al:MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021;70(32):1094-9.
5)Ferro JM, et al:Curr Neurol Neurosci Rep. 2019; 19(10):74.
【回答者】
中山哲夫 日本臨床ウイルス学会総務幹事/北里大学大村智記念研究所特任教授