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[討論 Pro×Pro]オミクロン株感染拡大─従来型の対策に効果はあるか(岩田健太郎×高山義浩)

No.5105 (2022年02月26日発行) P.14

登録日: 2022-02-24

最終更新日: 2022-03-14

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医師・医療従事者向け動画配信サービス「Web医事新報チャンネル」(www.jmedj.co.jp/movie/)で2月24日より配信を開始する対談「オミクロン株感染拡大~いま優先すべき対策、専門家が果たすべき役割」(岩田健太郎×高山義浩)の議論の模様を、「従来型の対策に効果はあるか」のパートを中心にダイジェストでお届けします。

オミクロン株感染拡大で従来型の新型コロナ対策の有効性があらためて問われる中、Web医事新報チャンネルでは、2人の感染症のプロ、神戸大学病院感染症内科の岩田健太郎教授と沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科の高山義浩副部長による対談を企画。1月28日にオンラインで収録を行い、2月24日より配信を開始しました。

本対談では、沖縄県の政策参与も務める高山氏が、沖縄でのオミクロン株との戦いで得た教訓について報告し、岩田氏がオミクロン株感染拡大に対する政府・自治体の対応の問題点を指摘。新型コロナウイルス感染者の国内初確認以降の2年間を振り返り、パンデミック時の政策決断において専門家が果たすべき役割についても討議しています。

ここでは、オミクロン株感染拡大を抑えるために、まん延防止等重点措置など従来型の措置・対策を繰り返すことの効果を検討した対談の前半部分をダイジェストでお届けします。

オミクロン株対応で得た教訓

高山 (沖縄でのオミクロン株感染拡大に対し)対応できなかったことで悔やまれるのは、要介護高齢者へのワクチン接種が進まなかったこと。

3回目の接種を県と市町村が連携して進めていればいま起きていることはかなり抑制できたのではないか。

(いま優先すべき対策としては)高齢者へのワクチン接種が最優先。(まん延防止等重点措置で)若者たちに行動抑制をお願いしつつ、行政がやるべきことをやれていないのはまずい。沖縄県としても集団接種会場を準備したり、高齢者施設の接種チームを準備したりということを優先して進めている。

オミクロン株の病原性や感染力はだいぶわかってきたので、(感染のリスクを)どこまで社会が許容できるのか、目標を明確にして緩められるところは緩めていく。そういう話し合いを政策決定者がしっかりやっていく必要がある。

「まん防」に効果があるというデータはない

岩田 俗に「まん防」といわれる重点措置だが、効果を検証した分析はほとんどない。

社会制限のアウトカムを検証した論文はたくさん出ており、検証自体は科学的に可能。2020年3月の一斉休校について私たちは論文を作ったが、一斉休校が感染抑制に寄与したかというと、私たちの解析では寄与していなかった。

「まん防」はどうだったかというのは当然調べてみるべきだし、調べた結果を根拠にオミクロン株に対して実施すべきなのか(という議論があるべき)。少なくとも私が知る限り「まん防は効果があった」というデータは全然ないし、「効果があったであろう」という理論的な根拠も乏しい。それをまた多くの自治体で繰り返すのは非常に問題だと思っている。

特に問題なのは「タイミング」。

日本でいまよくいわれているのは「医療体制を維持するために措置が必要」というロジック。しかし、COVID-19の場合、「感染者数が増える→入院者が増える→重症者が増える→死亡者が出る」というシークエンスが順番に来る。そこには一定のタイムラグがある。感染者数が急増すると、だんだん病床が逼迫し、若者中心に感染が拡大すると、だんだん年齢が高い層にも拡がっていく。

病床が50%逼迫したということで大阪や東京で「まん防」をやるか、緊急事態宣言をまた出すのかという議論をしているが、逼迫してから対策をとれば後手に回るのは当たり前。ある措置に効果があるとして、その措置は予防的にとるのが一番効果的だし、(そのほうが)期間も短くて済む。

「幼稚園児がおしっこを我慢している状態」

岩田 措置のタイミングが論理的に正しいのか、世論におもねって仕方なくやるのか。

私はよく「幼稚園児がおしっこを我慢している状態」と言うが、「いまはまだ我慢できる、いまはまだ我慢できる」と先送りしても、待っているのは大惨事だけ。これが論理だが、論理と雰囲気・世論のどちらが優先されるのか。論理もしくはデータ・エビデンスを基盤に感染対策をしなければ、社会・経済にもネガティブなアウトカムが訪れる。

こういった議論がされていない。議論されていても、表現形となって現れていないというのがいまの問題と思っている。

「まん防」の問題点は、効果がわかっている感染対策と、効果がないだろうという感染対策が混在していること。例えば、飲食店の営業時間が午後8時までであっても9時までであっても10時までであってもアウトカムに寄与するとは論理的にも考えづらいだけでなく、国際的にエビデンスも乏しい。複数の異なる人たちの飲食がリスクということはわかっているが、「複数」に特化した対策はなかなかされない。

力点を置くべきところと力を入れてなくていいところが混在しているので、「こんなことをやっていていいのか」という人々の信用の問題が出てくる。信用が得られないと感染対策そのものが毀損してしまうという悪循環が生じる。

重点措置の中身が大事

高山 お話をうかがっていて本当にそうだなと思う部分もあるが、まん延防止等重点措置に対する考え方が私とは違うかもしれない。

重点措置の中身は市町村単位で決めることがある程度認められている。「まん延防止のためにみんなで重点的に措置をとりましょう」ということであって、飲食店の営業時間については都道府県の判断で制限撤廃することができる。

岩田 でも、しないですよね。

高山 飲食店を制限していても、沖縄は結構みんなで自宅で飲むので、歓楽街から住宅街へ代行運転が呼ばれる場所が変わるだけというデータがある。GoToキャンペーンも家族と旅行するなら問題はないはず。家族との旅行はOKにするなど中身を作り変えていくことが必要だと思う。


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