胸部外傷は,心破裂や胸部大血管損傷などによりしばしば致命的となるが,多くは手術治療を必要としない。受傷後数時間で致命的となりうる胸部外傷として,気道閉塞,緊張性気胸,血胸,心タンポナーデが挙げられ,これらを早期に診断・除外することが重要である。手術が必要となった場合には,想定される損傷,手術操作で損傷部位に到達するまでの時間,患者の循環動態などを考慮して,手術方法を決定する。
鈍的外傷なのか穿通性(鋭的)外傷なのかを聴取する。詳細な受傷機転の聴取は,胸部外傷の診断,治療方針の決定にはあまり影響しないが,胸が挟まれていたか(挟圧),シートベルトやハンドルによる外傷の有無は重要である。既往歴,服薬歴,アレルギー歴,最終飲食や飲酒の有無の聴取は,致命的な胸部外傷の有無を確認した後に行う。
ショック状態であるかの判断が最優先である。血圧が低下していないことを理由に循環動態が安定していると判断することは危険である。不穏,不安,攻撃的な態度,顔面皮膚の蒼白,冷汗はショックの症状であり,これを見落とさないことが重要である。
ショックの原因のほとんどが出血による低容量性ショックである。緊張性気胸や心タンポナーデなどの閉塞性ショックがあったとしても,出血性ショックが併存している可能性は否定できない。大量輸血も常に考慮する。
致命的な胸部外傷の検索を優先して身体診察を行う。発語があるからといって,気道開通と判断することは危険である。今後,気道狭窄/閉塞を起こしうるような頸部の穿通性外傷や血腫の存在がないかどうかも確認する。
胸郭の上下動,安定性,皮下気腫,気管偏位,呼吸音,心音,頸静脈怒張を診察する。胸部の穿通性外傷に対する深さや創路の確認を目的とした外科的探索は,医原性の気胸や血胸を引き起こすため,行わない。穿通性外傷の場合は,背面を含めた体表すべての創の位置と数(特に銃創で重要)を確認する。診察で緊張性気胸と判断した場合は,胸腔ドレーンを挿入する。細い針による緊急脱気の有効性は乏しい。
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