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【識者の眼】「敗血症診断に用いるSIRSとquick SOFAの使い分けと考え方」松田直之

No.5123 (2022年07月02日発行) P.59

松田直之 (名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野 教授)

登録日: 2022-05-25

最終更新日: 2022-05-25

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敗血症が菌血症と切り離され、感染症における全身性炎症、つまり感染症における炎症性サイトカインストームの状態として定義されたのは1992年である1)。そして、敗血症が感染症において臓器障害が進行する状態として再定義されたのは2016年である2)

わが国においても2015年までは、敗血症診断のために、炎症性サイトカイン血症を予測する診療スコアとして全身性炎症反応症候群(SIRSスコア:体温、呼吸数、心拍数、白血球数の4つのクライテリアにおいて2つ以上を満たす)が用いられた。しかし、2016年からは、臓器障害の進行を予測するスコアとしてquick SOFAスコア(qSOFA:意識、呼吸数、収縮期血圧において2つ以上を満たす)に置き換えられている。SIRSスコアは臨床経験や学術性の高い学会メンバーのコア会議で決定されたものであり、一方でqSOFAは感染症において院内死亡率を高める要因を統計学的に解析したものである。その上で、両者の対象としている評価目標は、強い炎症状態あるいは臓器障害として異なる。

2012年より発刊した「日本版敗血症診療ガイドライン」3)は、診療エビデンスに基づくガイドラインとして成長してきており、敗血症を診療するにあたっての診療基盤として役立てて頂く内容である。その上で、臨床研究として学術的に成立していない内容は敗血症においても多岐にわたっており、最善のガイドラインとしてはベストプラクティスとしての記載の充実も期待される。

国際的に現在、敗血症診断においてSIRSスコアが見直される傾向がある。これは、感染症の予測においてSIRSスコアの感度がqSOFAスコアより高いためである。当たり前であるが、敗血症診断の必要条件が感染症であることより、この感染症を疑い、感染症の診断をつける医学教育が重要となる。その上でサイトカインストームを厳格に予測するSIRSスコア、さらに抗炎症性サイトカインや増殖性サイトカインの「津波」を予測する臨床スコアの開発が期待される。敗血症診断の前提として、感染症の適切かつ迅速な診断が必要と考えている。

【文献】

1)Crit Care Med. 1992;20(6):864-74.

2)Singer M, et al:JAMA. 2016;315(8):801-10.

3)日本集中治療医学会. 

   https://www.jsicm.org/publication/guideline.html (2022年5月20日確認)

松田直之(名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野 教授)[敗血症の最新トピックス

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