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【識者の眼】「救急・集中治療終末期ガイドライン改訂⑥─緊急時に行うadvance care planning」伊藤 香

伊藤 香 (帝京大学外科学講座Acute Care Surgery部門病院准教授、同部門長)

登録日: 2024-07-22

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Advance care planning(ACP)とは、厚生労働省の「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」(以下、プロセスガイドライン1)において、「人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス」と定義される。しかしながら、2017年の厚労省による調査では、「ACPを行ったことがある」と答えたのは一般国民回答者の約3%にすぎず、人生の最終段階にある患者が事前に意思決定のための十分な話し合いの時間が持たれぬまま救急搬送されてきた場合に、現場で患者側も医療者側も葛藤を感じることは珍しくない。

そんな中、2019年12月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行が拡大し始めた当時、国内外でこれまでにない急激な感染者数の増加から、「有事」に陥ることが懸念され、国民一人ひとりが最善の医療を受けられない状況を回避するためにACPの重要性が浮き彫りとなった。2020年4月には米国の医療者向けにACPのためのコミュニケーションスキルトレーニングを提供してきたVital TalkTMが、「COVID-19拡大下の患者とのコミュニケーション・アドバイス」を発表した。筆者は、かねてよりVital TalkTMの日本語版開発に携わっていたため、直ちにその和訳版を作成し、一般に公開した。また、筆者も共著者として携わった日本集中治療医学会・臨床倫理委員会の委員会報告「新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019,COVID-19)流行に際しての医療資源配分の観点からの治療差し控え・中止についての提言」では、「有事」であっても、原則として厚労省のプロセスガイドラインに沿った患者の意思決定支援を行い、最終的に医療資源の配分のために治療差し控え・中止に至った場合であっても、それを決定した医療者個人が責任を問われないように組織ごとに取り組むことが重要であるとした。

ACPは人生の最終段階についてあまり意識していないような段階ではあまり役に立たないかも知れないが、生命の危険に瀕した状況に際して行おうとしても、自分の意向を伝えることができないことが多い。未曾有のCOVID-19感染流行拡大は、医療資源の逼迫からの医療資源配分に至るかもしれないという、「有事」に関して考えさせる機会だった。ACP普及率の低いわが国においては、COVID-19感染流行拡大の最前線で診療を行っていた救急医・集中治療医には、限られた時間の中でもACPを行い、患者の選好に沿ったゴール設定を行うこと(shared decision making:SDM)が求められた。

筆者がその当時執筆した書籍「緊急ACP」1)では、救急医療現場で活用できるVital TalkTMの内容を基にしたコミュニケーションスキルを紹介している。本稿4月分で述べたように、今回のガイドライン改訂では救急・集中治療医療従事者がSDMのためのコミュニケーションスキルトレーニングを受けることを推奨する方向であり、拙書もぜひご参照されたい。

【文献】

1)伊藤香, 他:新訂版 緊急ACP 悪い知らせの伝え方、大切なことの決め方. 医学書院, 2022年.

伊藤 香(帝京大学外科学講座Acute Care Surgery部門病院准教授、同部門長)[ACP][プロセスガイドライン][COVID-19][SDM]

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