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[緊急寄稿]今季はインフルエンザ,COVID-19同時流行に警戒─世界ではインフルエンザが戻ってきた

No.5124 (2022年07月09日発行) P.34

菅谷憲夫 (慶應義塾大学医学部客員教授,日本感染症学会インフルエンザ委員会委員)

登録日: 2022-06-10

最終更新日: 2022-06-10

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インフルエンザが戻ってきた

日本では,2020/21年に続いて,昨シーズン(2021/22年)もインフルエンザ流行がみられず,2年連続してインフルエンザの流行がない異常な事態となった。

2020/21年シーズンは,日本のみならず世界でも,インフルエンザ流行はほとんどなかった。しかし,昨シーズンは,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株の出現が注目される一方で,実は北半球ではインフルエンザの流行が戻ってきていた。図1 1)に,北半球での亜型別インフルエンザ陽性検体数を示す。

米国では,昨年末からインフルエンザ感染者が増加し,“The Flu Makes an Unwelcome Comeback as Omicron Surges(オミクロン株急増と同時に,インフルエンザが歓迎されない復帰を果たす)”と報道された2)。A香港型(H3N2)による小流行ではあるが,5月末時点でも流行は続いている(図2)1)。また,ヨーロッパ各国でも,主にA香港型による流行がみられたが,スウェーデン(図3)1),フランス,フィンランドなどでは,比較的大きな流行となった。一方,わが国ではほとんど報道されなかったが,中国では北京オリンピックの最中に,B型インフルエンザの大規模な流行が発生していた(図4)1)。アジアの他の地域では,マレーシアにてA型の流行があった。

2年間まったくインフルエンザ流行がなかった日本でも,これからは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策,特に出入国制限が緩和されるので,欧米からA香港型,中国からB型が入ってくる可能性があり,本年度はインフルエンザ流行に警戒が必要である。

インフルエンザ流行はオミクロン株により干渉された

北半球,米国,そしてスウェーデンのインフルエンザ流行状況をみると,興味深いことに,2021年末から2022年1月にかけて,一時的に流行は抑えられていたことがわかる(図1~3)1)。これは,各国でオミクロン株が大流行した時期と一致しており,何らかのメカニズムで,インフルエンザ流行は干渉を受けたことを示している3)。一般には,オミクロン株対策としての出入国制限,マスク着用などが,インフルエンザの流行拡大を抑制したと考えられている。オミクロン株の流行が下火になるにつれて,インフルエンザの流行が再燃し,北半球では22週(5月末)の段階でもA型インフルエンザ流行が続いている。

警戒すべきはA香港型(H3N2)ウイルス

咋シーズン(2021/22年)の欧米諸国でのインフルエンザ流行(図2・3)1)は,A香港型ウイルスが主体であった4)。赤血球凝集素(hemagglutinin:HA)の系統樹解析(phylogenetic analysis)では,genetic clade“3C.2a1b.2a.2(2a.2)”であり,この年のワクチン株であった“A/Cambodia/e0826360/2020-like virus,3C.2a1b.2a.1(2a.1)”から変異していた。そのため米国の報告では,ワクチンの発病防止効果はわずか16%と,大幅に低下していた3)

一方,B型インフルエンザは,中国で大きな流行となった(図4)1)。なお,咋シーズンに,世界で検出されたB型インフルエンザはビクトリア株系統のみで,山形株は確認されていない4)。山形株は今後,ヒトの世界から姿を消す可能性もある。

A香港型に対するワクチンの発病防止効果は低い

最近,問題となっているのは,“孵化鶏卵で製造したワクチンは,A香港型インフルエンザに対して効果が低い”ということである。

世界保健機関(WHO)はワクチン株として,前シーズンの流行ウイルスと抗原性が一致したA香港型ウイルスを選定する。しかし,ウイルスは鶏卵内での増殖能が悪く,そのままではワクチン製造には使用できない。そのため,メーカーは,鶏卵にワクチン株ウイルスを繰り返し接種し,鶏卵内での増殖能が良いウイルスを選択する。ところが,その間に,肝心のHAの抗原性にも変異が起きてしまうので,ヒトに接種しても適切な抗体反応が得られないことになる。一方,A(H1N1)pdm09とB型は鶏卵内での増殖能が良いため,変異は少ない5)

ゆえに,ワクチンのA香港型に対しての発病防止効果は低く,若年成人でも30%前後,高齢者ではほとんど効果のないこともある。しかし,高齢者でも,一定の重症化防止効果(「入院防止」で算定される)は期待できる。A香港型インフルエンザに対する入院防止効果は,若年成人で51%,65歳以上の高齢者では37%と報告されている6)

同時流行が起きると,医療現場は混乱

発病防止効果が低いのは,SARS-CoV-2ワクチンでも同様である。SARS-CoV-2ワクチンの接種が進んでも,BA.2株など変異ウイルスが大勢を占めてくるので,ワクチンの効果は低下し,ワクチン接種済みであっても高率でbreakthrough感染を起こす。また,感染・発症から回復した患者も,再感染する。

今シーズンのインフルエンザは,ワクチン効果の低いA香港型の流行が予測されている。したがって,インフルエンザ様疾患を診た場合には,ワクチン歴にかかわらず,インフルエンザとCOVID-19の鑑別が必要となり,両ウイルスに対する外来での迅速診断,抗原検査の実施が必須となる。

インフルエンザワクチン接種が重要

本年度のA香港型のワクチン株は,前述のclade“3C.2a1b.2a.2(2a.2)”が選択されるが,日本人は十分な抗体を保有していないと思われるため,インフルエンザワクチン接種は特に重要である。南半球は日本のインフルエンザ流行に先行すると言われるが,日本同様に2シーズン連続して流行のなかったオーストラリアで,最近,A香港型インフルエンザが急増し(図5)1),“Australia's influenza cases soar after two quiet years(2つの静かなシーズンのあとに,オーストラリアでインフルエンザが急増)”,「入院患者も増加しているので,サウス・ウェールズ州では,ハイリスク患者だけでなく,全州民のワクチン無料接種を決定した」と報道された7)

日本のインフルエンザ診療では,優れた早期診断,早期治療体制が確立しているが,それを十分に活かすためには,すべての病院とクリニックが“発熱患者診療”にあたる必要がある。また,A香港型に対しての薬剤としては,耐性のないオセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害薬が選択肢となる。なお,バロキサビル マルボキシル(キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬)は,A香港型では耐性ウイルスの出現が報告されている8)9)

【文献】

1) World Health Organization:FluNet. 2022.
https://www.who.int/tools/flunet

2) The New York Times:The Flu Makes an Unwelcome Comeback as Omicron Surges(Dec. 22, 2021).
https://www.nytimes.com/interactive/2021/12/22/us/flu-cases.html?searchResultPosition=18

3) Chung JR, et al:MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022;71(10):365-70.

4) World Health Organization:Recommended composition of influenza virus vaccines for use in the 2022-2023 northern hemisphere influenza season(Feb. 25, 2022).

5) 菅谷憲夫, 編・著:インフルエンザ/新型コロナウイルス感染症診療ガイド2021-22. 日本医事新報社, 2021, p35-56.

6) Rondy M, et al:Vaccine. 2017;35(34):4298-306.

7) ABC NEWS:Australia’s influenza cases soar after two quiet years(May. 25, 2022).
https://www.abc.net.au/news/2022-05-25/flu-cases-soaring-in-australia-after-two-quiet-years/101093746?

8) Hayden FG, et al:N Engl J Med. 2018;379(10):913-23.

9) Hirotsu N, et al:Clin Infect Dis. 2020;71(4):971-81.

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