2002年の暮れに,中国南部広東を源として重症呼吸器感染症が流行し,2003年2月から3月にかけて香港,ベトナム(ハノイ市),シンガポール,カナダ(トロント市)で重症肺炎の院内感染が流行した。世界保健機関(World Health Organization:WHO)は,この病気を重症急性呼吸器感染症候群(severe acute respiratory syndrome:SARS)と命名し,SARSが新規コロナウイルス(SARS-CoV-1)による新規感染症であることが明らかにされた1)。SARSの流行は2003年6月に一度収束し,約半年の流行期間に中国本土を中心に約8000人の患者が発生して,約10%の患者が死亡した。
SARS-CoV-1の宿主は中国に生息するキクガシラコウモリであることが明らかにされている。SARSは動物(コウモリ)を宿主とするSARS-CoV-1による感染症,つまり動物由来ウイルス感染症であり,その致命率はとても高い。特異的な治療法やワクチンはない。SARSは日本の感染症法では2類感染症に分類されている。
2~7日(最大10日間)の潜伏期間の後に,発熱,咳嗽,全身倦怠感,関節痛,筋肉痛等の急性呼吸器感染症症状を呈する。発症後数日で呼吸器症状が増強し,呼吸困難,酸素飽和度の低下が出現し,画像診断(胸部CTや胸部X線写真)で重症肺炎像が認められる。SARS流行が確認されている,その流行地から帰国した重症呼吸器症状を呈する患者,および,その患者との接触者が肺炎等の症状を呈した場合に,SARSを疑う。SARSを疑う患者を診た場合には,最寄りの保健所に相談する。
診断には,SARS-CoV-1の遺伝子を検出するためのRT-PCR検査,急性期と回復期におけるSARS-CoV-1に対する抗体価の有意な上昇を確認する必要がある。検査は地方衛生研究所または国立感染症研究所で実施される。SARSが疑われる患者は高度医療機関に紹介,搬送する。
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