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新しい頭痛発症抑制薬「抗CGRP受容体モノクローナル抗体」による片頭痛治療─エレヌマブ発売後早期のリアルワールドデータ

No.5124 (2022年07月09日発行) P.39

菊井祥二 (富永病院脳神経内科副部長/パーキンソン病治療センターセンター長/脳卒中センター副センター長)

團野大介 (富永病院頭痛センター副センター長)

竹島多賀夫 (富永病院副院長/脳神経内科部長/頭痛センターセンター長/富永クリニック院長(兼任))

登録日: 2022-07-11

最終更新日: 2022-07-07

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Point

ガルカネズマブに続き,2021年8月にエレヌマブが発売された。

エレヌマブは,片頭痛病態に関連するカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体を阻害するモノクローナル抗体であり,ガルカネズマブと同様に,高い有効性と安全性がみられる。

富永病院頭痛センターでは,発売後約4カ月間で50例以上にエレヌマブを使用してきた。有効例は42例(73.7%)で,従来の治療ではきわめて難治であった症例でも著効することがある。

ガルカネズマブ投与における無効例〜低反応例でも,エレヌマブへの変更で効果がみられる症例もある。

1. はじめに

片頭痛は,日常生活に支障をきたす頻度の高い神経疾患である。通常,生命を脅かすことはないが,個々の患者の生活の質は大きく障害され,社会全体に与える経済的影響も大きい。

わが国では,2000年に片頭痛の特異的急性期治療薬であるトリプタンが認可されて以降,片頭痛予防薬(発症抑制薬)としてCa拮抗薬(ロメリジン塩酸塩)が開発され,また,世界標準の抗てんかん薬(バルプロ酸ナトリウム)やβ遮断薬(プロプラノロール塩酸塩)が片頭痛予防に適応となり,片頭痛治療は大きく改善した。さらに,頭痛の診療ガイドラインも整備され,エビデンスに基づいた片頭痛治療が推進されているが,まだ十分にその恩恵を受けていない片頭痛患者も存在する。

カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin-gene related peptide:CGRP)については,片頭痛発作直後の頸静脈中CGRP濃度が対照群に比して有意に高値であったことや,片頭痛患者へのCGRP投与による片頭痛様発作誘発の報告から,CGRPの片頭痛病態への関与が示唆されていた1)2)。そして近年,片頭痛患者のアンメットニーズに対応するため,新規治療薬の開発が進み,CGRPやCGRP受容体を標的にしたモノクローナル抗体が開発された。これらの抗体薬は,片頭痛病態の本態である三叉神経血管系に直接作用し,投与により片頭痛の発現は抑制されることが示された。

わが国でも,2021年4月に抗CGRPモノクローナル抗体であるガルカネズマブの販売が開始され,高い有効性と安全性が確認された。さらに,同年8月には抗CGRP受容体モノクローナル抗体のエレヌマブが発売された。本稿では,エレヌマブの有効性と,富永病院頭痛センターにおける同薬発売後約4カ月間の使用経験について述べる。

2. エレヌマブの有効性と安全性

反復性片頭痛(episodic migraine:EM)患者955名を対象にした第3相臨床試験のSTRIVE試験3)では,エレヌマブ70mg投与群(317名),140mg投与群(319名),プラセボ群(319名)にランダム化し,1カ月ごとに皮下注射を施行した(二重盲検期間:24週間)。

主要評価項目は,二重盲検期間の4~6カ月時点での月間片頭痛日数(monthly migraine days:MMD)のベースラインからの変化量とされ,MMDの平均減少日数は,70mg投与群:-3.2日,140mg投与群:-3.7日,プラセボ群:-1.8日であり,実薬群で有意な減少を示した(P<0.001)。副次評価項目としての50%以上のMMD減少を示した患者の割合は,70mg投与群で43.3%,140mg投与群で50.0%と,プラセボ群の26.6%より有意に高かった。

また,既存の片頭痛予防薬で治療効果不十分例を対象としたLIBERTY試験においても,エレヌマブ治療の有効性が示されている4)

さらに,従来,薬剤の使用過多による頭痛(medication-overuse headache:MOH)は,原因薬物の中止が治療の原則であったが,エレヌマブ投与によりMOH合併例での急性期治療薬使用の減少も確認されている5)

エレヌマブの主な有害事象として注射部位反応はあるが,重篤な有害事象の発現に関しては群間差を認めていない。5年間の長期試験においても,有害事象の新たなシグナルがみられることはなく,有害事象発現率の増加もみられていない6)。なお,日本人でも2年間のオープンラベル試験で,有効性と安全性が確認されている7)

3. ガイドライン

2021年8月に厚生労働省から「最適使用推進ガイドライン エレヌマブ」8)が公表された。その中では,投与前の片頭痛日数が平均4日/月以上であり,既承認の発症抑制薬について①効果が不十分,②忍容性が低い,③禁忌や副作用から安全性への強い懸念がある,などの理由によって使用できない場合に,エレヌマブの投与が可能である,としている。日本頭痛学会からも「CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版)」が公表され,エレヌマブ3回投与後を目安に治療上の有益性を評価し,症状の改善が認められない場合には,投与中止を考慮することを推奨している9)

4. 富永病院頭痛センターにおけるエレヌマブ使用経験

富永病院頭痛センターでは,頭痛専門医は常勤7名・非常勤1名で,急性頭痛から慢性頭痛まで,幅広く頭痛性疾患を診療している。2010年の開設以来8000例以上の頭痛患者を診療しており,その内訳は約半数が片頭痛で,特に慢性片頭痛,MOHが多い。

今回,2021年8月12日の発売から12月末までの約4カ月間に,成人の片頭痛患者でエレヌマブを使用した症例について,後方視的に分析した。対象症例は計58例で,女性が48例(82.8%),慢性片頭痛が48例で,30例がMOHを合併していた(表1)。なお,エレヌマブは最大5回まで投与された(表2)。

 

患者申告および医師判断による有効性の評価については,「著明改善」が9例(15.8%),「有効」が14例(24.6%)であった。また,「やや有効」まで含めた有効例は42例(73.7%)であった(表3)。さらに,従来の治療ではきわめて難治であった症例でも,著効することを経験した。無効例は15例(26.3%)でみられ,そのうち5例は投与を中止している。当センターで先行したガルカネズマブ152例の検討10)でも21例(13.8%)で無効例がみられ,そのうち5例は投与を中止しており,リアルワールドにおいてもCGRP関連抗体薬では一定数の無効例は存在することが示唆される。

エレヌマブを投与された58例のうち,CGRP関連抗体薬として,最初にエレヌマブが投与された症例が35例(60.3%),ガルカネズマブから変更された症例が23例(39.7%)であった。変更された症例はいずれも3回以上のガルカネズマブ投与に対して無効例〜低反応例であり,他薬剤への変更を患者が希望した。ちなみに,フレマネズマブからの変更例はなかった(表4)。統計学的な検討はしていないが,エレヌマブ初回群のほうが,ガルカネズマブからの変更群より,患者申告および医師判断での改善例は多い傾向がみられる。なお,ガルカネズマブ無効例〜低反応例であっても,一定の効果がみられている(表5)。

海外ではエレヌマブが先行発売されており,エレヌマブ無効例〜低反応例をガルカネズマブやフレマネズマブに変更することで,一定の効果がみられると報告されている11)12)。CGRP関連抗体薬の無効例でのブランド変更も考慮可能であることが示唆され,今後,さらなる検討が必要である。

わが国でエレヌマブと同時期に発売されたフレマネズマブは,12月末現在,当センターでは44例に使用されているが,ガルカネズマブからの変更例の割合は8例(18.2%)と少ない。無効例に対しては,CGRP抗体(ガルカネズマブ,フレマネズマブ)からCGRP受容体抗体(エレヌマブ)へと作用機序を変化させようとする,外来主治医の意図が反映されている可能性がある。

最後に,エレヌマブの有害事象として,5例で便秘が認められたが,いずれも重篤ではなかった。

5. おわりに

抗CGRP受容体モノクローナル抗体であるエレヌマブの有効性と,発売後早期の使用経験を述べた。エレヌマブは先行のガルカネズマブと同様に,効果発現の早さ,MOH例を含めた有効性の高さ,安全性の高さを併せ持ち,今後,片頭痛治療のパラダイムシフトが進むと考えられる。

片頭痛患者への実際の使用にあたっては,ガイドラインを遵守するように努める必要がある。また,患者には,無効例の存在や有害事象,薬価などについても丁寧に説明し,過度な期待は持たせずに,3~6カ月程度治療効果をみることを提案するのがよいと考えられる。無効例でのブランド変更も一定の効果がみられる可能性はあるが,今後の検討が必要である。

【文献】

1)Goadsby PJ, et al:Ann Neurol. 1990;28(2):183-7.

2)Lassen LH, et al:Cephalalgia. 2002;22(1):54-61.

3)Goadsby PJ, et al:N Engl J Med. 2017;377(22):2123-32.

4)Reuter U, et al:Lancet. 2018;392(10161):2280-7.

5)Tepper SJ, et al:Neurology. 2019;92(20):e2309-20.

6)Ashina M, et al:Eur J Neurol. 2021;28(5):1716-25.

7)Sakai F, et al:Headache. 2021;61(4):653-61.

8)厚生労働省:最適使用推進ガイドライン エレヌマブ(遺伝子組換え)(販売名:アイモビーグ皮下注70mgペン)(2021年8月).
 https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T210812I0020.pdf

9)日本頭痛学会:CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版)(2022年1月17日更新).
 https://jhsnet.net/GUIDELINE/CGRP/7.pdf

10)團野大介, 他:医事新報. 2021;5092:34-7.

11)Patier Ruiz I, et al:Eur Neurol. 2022;85(2):132-5.

12)Overeem LH, et al:Cephalalgia. 2022;42(4-5):291-301.

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