高地では大気圧が下がることで大気中の酸素分圧が低下し,これにより血中酸素分圧も低下してしまう。これに対し,生体は換気回数を増加させるなどの「低酸素換気応答」を起こし,肺胞気二酸化炭素分圧を下げて,少しでも肺胞気酸素分圧を保とうとする。通常はこれを2~5日程度の時間をかけて行うことで徐々に高所順応が進むことになるが,急に高度を上げる,体調不良がある,などの要因により順応がうまくいかない場合には,頭痛のみならず,嘔吐,脱力,めまいなどの様々な症状が出現することとなる。この際の症状を総称して「急性高山病」と言う。このため治療としてまず考えるのは,大気中の酸素分圧を上昇させること,すなわち高度を下げることである。
病歴としては,高地に到達してから発症までの時間経過とその間の高度の変化が重要となる。通常は2500mを超える高地で発症することが多い。登山はもちろん,標高の高い都市や観光地を訪れることで発症しうる。
現場での診断,重症度判定に広く用いられているのが1993年に制定された急性高山病スコア(Lake Louise Scoreとも呼ばれる)である1)。高地到着後6時間以上経過してからの症状として,①頭痛,②胃腸症状,③疲労・脱力,④めまい・ふらつき,⑤睡眠障害,の5つについて,0~3点までの4段階で評価,頭痛を含む合計点3点以上,もしくは頭痛の有無にかかわらず4点以上を急性高山病と診断する。このため,この5つの症状を把握することが重要となる。また,急性高山病の中でより進行した重症病態としての高地脳浮腫,高地肺水腫も見落としてはならない。
高地脳浮腫は低酸素により脳血管が拡張することで引き起こされ,頭蓋内圧が亢進する。これにより激しい頭痛だけでなく,悪心・嘔吐が出現し,さらには傾眠などの意識障害,精神症状(理不尽な行動や病識の欠如,易怒性など),運動失調をきたす。前述のスコアにより急性高山病と診断され,かつ,精神状態の変化または運動失調が存在する,もしくは急性高山病の症状はないが,精神状態の変化および運動失調を呈する場合に高地脳浮腫と診断する2)。可逆性ではあるが,進行すると不可逆性となり,脳ヘルニアに進展する可能性もある。
高地肺水腫は著明な肺高血圧を伴う非心原性の肺水腫であり,乾性咳嗽,労作性呼吸困難を伴い,さらには泡沫状痰などが出現する。高度が上昇するとそもそもSpO2値は低下するため,この値そのものは病勢の判断には用いがたい。症状や全身状態から判断するようにする。
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