狂犬病は狂犬病ウイルス感染により起こる致死的な神経感染症である。人獣共通感染症で,通常狂犬病に罹患した動物(イヌ,ネコ,コウモリ,アライグマなど)に咬まれることや,唾液や体液に触れることで感染する1)。通常は1~3カ月の潜伏期があり,初期症状は発熱,知覚過敏,疼痛などである。日本は狂犬病清浄国であり,1957年以降は4例の輸入症例が報告されているのみである2)。
髄液検査で細胞数の上昇や脳炎を疑う画像異常を呈することがあるが,特異的な所見はないため,初診時の診断には苦慮すると思われる。咽頭周囲の筋痙攣に伴う苦痛を回避するために出現する恐水症状や,風・光・音に対して過敏に反応することなどが特徴的であるが,意識障害のため本人が症状を訴えることができない場合もあり,家族や友人からの情報も参考にする。海外渡航歴や動物咬傷歴の有無についても確認が必要であるが,受傷後1年以上経過して発症する例も2~3%あることに留意し病歴を聴取する。
狂犬病を疑った場合には,まず保健所や国立感染症研究所に相談する。唾液や脳脊髄液を材料としたPCR法によるウイルスゲノムRNAの検出や,後頸部皮膚生検でのウイルス抗原の検出により診断する。狂犬病が強く疑われるにもかかわらず検査結果が陰性の場合は,3~6時間おきに採取した3つ以上の唾液サンプルを用いる1)。
発症後は急激に症状が悪化するため,集中治療部での管理が望ましいが,治療法は確立されていない。狂犬病ウイルス抗原により神経細胞の機能障害が出現するため,積極的な呼吸・循環の管理を行っても救命はほぼ不可能である。発熱,痙攣,意識障害などの症状を呈し,呼吸筋麻痺や自律神経障害による血圧の急激な変化,不整脈などが出現し,発症10日ほどで死に至る。緩和的な対応や本人および家族に対する精神的なサポートについても考慮が必要である。
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