レジオネラ(Legionella)は人工環境中に広く分布し,ビル冷却塔水や病院・住居等の給水・給湯系が主要な感染源とされる。免疫抑制患者では水質汚染と関連の乏しい感染を起こすこともあり,幅広い対象への注意を要する。
感染症予防法において,レジオネラ症(legionellosis)は4類感染症として位置づけられ,全数報告対象疾患である。レジオネラ症の報告総数は増加傾向にあり,2018~2020年には年間2000例あまりが報告されている。
レジオネラ症の主な病型は,ポンティアック熱型と肺炎型である。肺炎を認めず発熱および頭痛を主徴とするポンティアック熱型は,予後良好である。肺炎型の潜伏期間は2~10日間で,突然の高熱や呼吸器症状で発症する。
レジオネラは通性細胞内寄生菌であり,①咳,膿性痰,胸痛は比較的少ない,②比較的徐脈を高頻度で伴う,③呼吸器症状以外の症状(消化器症状,意識障害など)が比較的多い,という特徴がみられる。
血液検査では白血球数,CRPの上昇に加え,低ナトリウム血症,低リン血症を認めることがある。横紋筋融解症,急性腎障害などを合併することがある。
胸部X線像では大葉性肺炎像や多発性病変を呈することが多く,時に胸水の合併が認められる。胸部CTでは,非区域性に進展するconsolidationが特徴である。
臨床検体中のレジオネラはグラム染色にて染色されないため,その検出にはヒメネス(Gimenez)染色などが必要である。本菌の分離培養にはpH緩衝剤と活性炭を導入したbuffered charcoal yeast extract-α(BCYE-α)培地や,これに抗菌薬を含有するWadowsky-Yee-Okuda(WYO)培地などの選択培地を用いる。
L. pneumophilaに含まれる蛋白を,イムノクロマト法を原理として検出する尿中抗原検出法が診断に広く用いられている。尿中抗原検査は,発症のごく初期などには偽陰性を示す例,肺炎治癒後も陽性が長期間持続する例があることに留意する。2003年にL. pneumophila血清群1を対象とした検査キット(BinaxNOWTM)が保険適用となり,2019年2月よりL. pneumophila全血清群を対象とした検査キット(リボテストⓇレジオネラ)が使用可能となった。L. pneumophilaはレジオネラ症のおおよそ7割を占め,うち半数が血清型1に由来する。尿中抗原キットで診断困難なものについては,菌分離培養,あるいはレジオネラ属すべての菌種を検出する特異的遺伝子検出を行う必要がある。後者としては,ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)法やloop-mediated isothermal amplification (LAMP)法が開発されている。
レジオネラ症に対する第一選択薬は,キノロン系薬およびアザライド系薬である。
本症の迅速診断法としてレジオネラ尿中抗原検査が広く用いられているが,偽陰性もあるため,注意を要する。
レジオネラは細胞内増殖菌であり,ヒトに感染するとマクロファージなどの中で増殖する。したがって,βラクタム系薬,カルバペネム系薬,アミノ配糖体系薬は宿主細胞内への移行が不良であるため,レジオネラ症には効果がない。
キノロン系薬およびアザライド系薬は2週間の投与,マクロライド系薬では3週間の治療期間を標準とし,病態に応じて投与期間を決定する。
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