【“全室個室”を強く推奨するのは米国のみ。その他の国々の個室率は緩やかに上昇傾向にある】
米国にはFGI(Facility Guidelines Institute)が作成している“Guidelines for Design and Construction of Hospitals and Outpatient Facilities”というガイドラインがあります。その中で,病室は原則として個室とすることが示されています。このガイドラインが上記のように定めたのは2010年からですが,米国ではそれ以前から全室個室の病院が数多くありました。これは,医療施設や保険会社の患者獲得競争の手段として用いられたから,との話もあります。
英国にはDHSC(Department of Health and Social Care)が作成している“HBN(Health Building Note)”というガイドラインがあり,病室の定員は4床以下となっています。ただし,個室率を50%以上とすることが求められています。一方で,看護単位は24床をベースとしているために,個室率を50%以上確保すると,現実的には4床の病室が3室以下となってしまい,使い方が難しくなります。そのため,全室個室の病院も造られはじめているようです。
ドイツでは州によって基準が示されており,たとえばバイエルン州では病室の定員は2床以下となっています。個室率は低いものの,ゆとりのある病室で個室的なしつらえを工夫している事例も見受けられます。
オーストラリアにはAHIA(Australasian Health Infrastructure Alliance)が作成している“AusHFG(Australasian Health Facility Guidelines)”というガイドラインがあり,病室の定員は4床以下となっています。一方で,個室と多床室のメリット・デメリットも詳細に列記しており,それぞれの病院計画において,病室の組み合わせを検討することが必要である,としています。
これらの限られた事例や,筆者のこれまでの海外での経験によると,全室個室を強く推奨しているのは米国のみです。しかし,それ以外の国々でも近年では,個室率の上昇,または全室個室化の傾向が,時間をかけつつではありますが,進んでいるように見受けられます。
【参考】
▶ 日本医療福祉設備協会 病院設備設計基準研究委員会:病棟部門ガイドラインの国際比較. 日本医療福祉設備協会, 2020.
【回答者】
筧 淳夫 工学院大学建築学部建築デザイン学科教授