精神科医療の黎明期である19世紀よりGriesingerら多くの研究者により,統合失調症などの精神病は脳病であることが看破されていた。しかし,長らく行われた死後脳研究などではめぼしい知見は得られず,in vivoにおいては,わずかに気脳写により統合失調症で側脳室の開大が生じることが報告された程度であった。
1976年にCT,続いて84年にMRIが登場してから,in vivoにおいて統合失調症で生じる脳内の病的変化が詳細に調べられるようになり,神経画像研究は飛躍的な進歩を迎えた。今日までに膨大な神経画像研究が行われてきたが,統合失調症では健常者と比べ,主に前頭葉と側頭葉の体積が減少していること,これらの体積の減少は精神病症状発症後,約3年以内に急速に進むことが明らかになっている。
PETやSPECTによっても,統合失調症では前頭や側頭の血流が低下することが明らかになっており,現在では前頭や側頭の機能低下が精神病症状出現のバックグラウンドになると考えられている。近年,こうした前頭や側頭の病的変化が精神病の発症前からも徐々に進み,顕在発症前に生じる精神病前駆症状とも関連することが示唆されている。
そのほか,統合失調症では前頭や側頭以外にも,広範な認知機能を司るドパミン神経が集まる大脳基底核や,脳内の神経連絡を担う神経線維の束である大脳白質など,様々な脳部位で病的変化が生じることが明らかになっている。
【解説】
片桐直之,*水野雅文 東邦大学精神神経医学 *教授