溶血性連鎖球菌はグラム陽性球菌であり,血液寒天培地における溶血性の違いと,表面抗原の特徴に基づいたランスフィールド分類により分類される。小児感染症領域で問題となることが多い溶血性連鎖球菌はA群β溶血性連鎖球菌(group A streptococcus:GAS)と,B群β溶血性連鎖球菌(group B streptococcus:GBS)である。
GASによる咽頭炎や皮膚軟部組織感染症は予後良好である一方で,扁桃周囲膿瘍や毒素性ショック症候群などは重篤な経過をたどることがある。また,GAS感染に対する免疫応答による非化膿性合併症として急性リウマチ熱や急性糸球体腎炎がある。
GBS感染症は新生児から早期乳児に,菌血症や髄膜炎などの侵襲性感染症を起こす。早発型は産道感染が主であり,分娩時の抗菌薬の予防的使用により頻度は減少している。一方で,水平感染が原因となる遅発型は分娩時の抗菌薬投与では発症を抑制できず,現在ではわが国における細菌性髄膜炎の最多の原因となっている。
日常診療で遭遇することの多いGASによる伝染性膿痂疹と急性咽頭炎に関して述べる。
伝染性膿痂疹はGASと黄色ブドウ球菌が主な原因となる皮膚の表在性感染症であり,皮膚所見から水疱性膿痂疹と痂皮性膿痂疹に分類される。GASが原因となる場合は痂皮性膿痂疹が多い。皮膚所見により診断は可能であり,honey-colored crustと呼ばれる特徴的な黄色い痂皮を形成することもある。発熱などの全身症状は伴わないことが多い。
GAS咽頭炎は5~15歳に多く,小児の咽頭炎の15~30%を占め,他の原因としてはウイルスが多い。よって,GAS咽頭炎を正確に診断することはウイルス性咽頭炎に対する抗菌薬処方を減らすことにも有用である。GAS咽頭炎は発熱,前頸部リンパ節腫脹,扁桃の白苔,軟口蓋点状出血,嚥下時痛を呈する。一方,ウイルス性咽頭炎では鼻汁,結膜炎,口内炎,下痢をきたしうる。GAS咽頭炎の迅速検査は培養と比し感度は約86%,特異度は約95%である。検査前確率が低い場合には,偽陽性が増えることに留意する。3歳以下ではリウマチ熱を合併するリスク自体が低いため,検査適応はより吟味されるべきである。咽頭培養は治療の反応が不良の場合や感受性検査が必要な場合に考慮される。
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