サルモネラ属菌は通性嫌気性グラム陰性桿菌で,河川,下水など自然界に広く分布し,家畜(ブタ,ニワトリ,ウシ),爬虫類,両生類が保菌している。食中毒の起炎菌として知られており,ヒトはサルモネラ属菌に汚染された卵や肉を経口摂取して感染する。また,爬虫類を感染源とする事例では,スッポン刺身の摂取やミドリガメ,イグアナなどペットを介した例が報告1)されている。
サルモネラ属菌は生物学的性状とDNA相関性に基づき,Salmonella entericaとS. bongoriの2菌種にわけられる1) 2)。ヒトに病原性を示すサルモネラ属菌はS. enterica subsp.entericaとS. enterica subsp. arizonaeである。さらに菌体(O)抗原と鞭毛(H)抗原による組み合わせにより2500種以上の血清型が報告されている。S. enterica subsp. entericaは血清型により病型が違い,チフス性サルモネラと非チフス性サルモネラ(non-typhoidal Salmonella:NTS)にわけられる。NTSの代表的な血清型はS. enterica subsp. enterica serovar EnteritidisとS. enterica subsp. enterica serovar Typhimuriumである。最近,これ以外の血清型が分離される症例報告がみられる。サルモネラ菌種はS. Typhimuriumのように血清型を示して略記することもある。
NTS感染症の病型は腸管感染症(腸炎)が主体である。腸炎患者の5%に菌血症が合併し,さらに髄膜炎,脊髄硬膜外膿瘍,骨髄炎,関節炎,感染性心内膜炎や感染性大動脈瘤に進展することもある1)2)。
腸管感染症2)の潜伏期は4~72時間である。急性発症の発熱,悪寒,悪心・嘔吐,腹痛,下痢(血便がみられることもある)が出現する。発熱は72時間程度で解熱する。下痢は3~7日で自然に改善することが多い。症状が改善しても感染から5週間は便への菌の排出が続く。
菌血症を合併し血管内病変や腸管外病変に進展したものを,侵襲性非チフス性サルモネラ(invasive NTS:iNTS)感染症と呼ぶ。先進国でみられる頻度は低いが,小児,高齢者,細胞性免疫が低下する病態(HIV感染症や悪性リンパ腫など)では,より菌血症や腸管外病変を発症しやすくなる2)。50歳以上の成人においては,感染性動脈瘤の合併率も高まるという報告がある2)。脊髄硬膜外膿瘍,骨髄炎,関節炎では病変部位に応じた症状が出現する。
腸炎であれば便,iNTS感染症であれば血液や病変部位から得られる検体(関節液,膿汁,生検組織など)からサルモネラ属菌を分離することで診断する。
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