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臨床現場におけるSDHを考慮した診療と学習法─SDHの眼鏡をかけて患者理解を深める[プライマリ・ケアの理論と実践(160)]

No.5138 (2022年10月15日発行) P.12

武田裕子 (順天堂大学大学院医学研究科医学教育学教授)

登録日: 2022-10-13

最終更新日: 2022-10-12

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SUMMARY
健康の社会的決定要因(SDH)の存在が見出せると,「病気の原因の原因」に気づくことができ,患者理解が深まる。何が必要か,どのようなアプローチが可能か,多職種さらには地域の支援団体の力を借りて明らかにし,社会的処方につなげよう。

KEYWORD
健康格差
単に標準的な健康統計からの逸脱を指すのではなく,構造的な問題,社会的要因によって生じる健康状態の差。患者の努力ではどうしようもない属性によって生じる不公正な差。

武田裕子(順天堂大学大学院医学研究科医学教育学教授)

PROFILE
専門は,内科/プライマリ・ケア,医学教育,地域医療,国際協力。健康格差をテーマに学生教育に従事。SOGI(性的指向性自認)によらず安心して受診できる病院づくりに取り組む。医療×「やさしい日本語」研究会代表。

POLICY・座右の銘
神は,耐えることのできないような試練には会わせない

1「困った患者ほど困っている」

日常診療の中で,予約日に来ない,処方通り薬を飲まない,態度が投げやりといった患者に遭遇したことはないだろうか。そのようなときにSDH(social determinants of health,健康の社会的決定要因)の眼鏡をかけて,健康であるために必要な医療以外のニーズが隠れていないか尋ねてみたい。「支払いが困難なので給料日前は受診を控えている」「薬代を浮かすために量を半分にして内服している」「失業して途方に暮れている」などの困りごとが見えてくる。

SDHとは,個人の健康に影響する社会的要因,構造的問題のことである。たとえば,就職氷河期世代で非正規雇用の職しか得られず低賃金で医療費もままならないとか,コロナ禍で失業して住まいを失い食事にも事欠くようになって身体を壊したなど。リーマンショックなどの社会経済的環境やコロナ禍のように個人の力ではどうしようもできないことで,医療にアクセスできなかったり,直接,間接に健康に影響を受けてしまう。社会のありようが,健康格差の原因となるのだ。

飯田市にある健和会病院の和田浩院長は,医療者側にネガティブな感情がわくとき,相手は何らかの困難を抱えており,その背景に貧困があることが多く,「(医師が)困った(と思う)患者ほど困っている」と言う1)

医療機関で経済的事情を相談できると思っている人は少ない。医療者側がSDHの存在に気づくことが患者理解を深め,適切な対応のきっかけとなるだけでなく,医療者の患者に対する陰性感情(嫌な気持ち)からの解放につながる。孤立というSDHの存在が,健康を害して医療機関に運ばれて初めてわかることもある。医療機関は最後のセーフティネットとも言える。適切な診断と治療にとどまらず,「病気の原因の原因」であり治療の妨げともなるSDHに気づきたい。







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