本書は,神経内科医,脳神経外科医,産業医,心療内科医,東洋医学専門医などの肩書を持つ医師5人が共同執筆した一般人向けの書籍である。「脳を疲れさせない」というテーマで平易な解説が試みられている。メディアなどで「脳疲労」という言葉を耳にするが,本書では「考えようと思ってもなかなか進まなかったり,違うことをいつの間にか考えてしまったり,頭にモヤがかかったような状態になったりするのが,脳が疲労した状態」と定義し,5章にわけて執筆されている。
第1章「頭が疲れる。心が消耗する。」
第2章「疲れない脳の使い方」
第3章「脳疲労をなくす食事」
第4章「脳の老化を防ぎ,認知症を予防する」
第5章「脳を休ませる睡眠の科学」
本書は1人の医師が1つの章を担当して執筆しているのではなく,各章を構成する小項目をランダムに5人の医師が執筆するというめずらしい形式をとっている。そのため,かなり専門的な脳科学からの解説もあれば,行動学的・心理学的なアドバイスが出てきたり,著者自身の経験論的な内容も盛り込まれていたりと内容が多岐に及んでおり,やや統一性に欠けるきらいがある。後半には抗加齢学,栄養学,睡眠学的な見地からの情報・アドバイスも書かれている。
しかし逆に言えば,「脳をいかに疲れさせずに,効率よく仕事や勉強を行うか」という情報のつまったtips(助言・ヒント)的な書籍と考えると,気軽にパラパラと読み進められる。一般人向け書籍であるためか,論拠となる文献・参考書籍の記載がないことが残念だが,自分の非専門領域の内容は興味深いところも多い。患者へのちょっとした助言ネタとしても活用できると思う。
個人的には「予測と現実のギャップが脳を疲れさせる」「正しく予測したら,あとは予測通りの結果を出すか,できるだけ誤差を少なくすれば脳は疲れない」といった知見に興味をそそられた。より詳しく学びたいため出典の記載が欲しいと感じた。
また第3章では,気力維持や抗ストレスの観点からも食事(栄養)が非常に重要であることを再確認した。心のケアが必要と言いつつ食事がおざなりになっている人が非常に多いので,日々の診療や産業医業務で活用できると思う。