2型糖尿病(DM)例は認知症のリスクが高い。非DM例に比べ発症相対リスクは1.51(95%信頼区間[CI]:1.31–1.74)、軽度認知障害でも1.21(同:1.02–1.45)であると、4万5000例弱を対象としたメタ解析が報告している[Cheng G, et al. 2012.]。一方、血糖降下薬が2型DM例の認知機能に及ぼす影響については、小規模・短期間の観察研究からの報告がほとんどである。
そこで、その影響について、米国の大規模医療記録を用い、56万人の長期追跡データが解析され、"BMJ Open Diab Res Care"サイトで9月13日に公表された。その結果、グリタゾン薬はメトホルミンに比べて認知症リスクが低く、逆にSU薬では高かった[Tang X, et al. 2022.]。
解析対象とされたのは、米国退役軍人診療システムから抽出した、血糖降下薬開始時に「60歳以上」で「糖尿病性合併症は2つ以下」の2型DM例デジタル版個人健康情報(EHR)である。55万9106例が解析された。認知機能に問題、あるいは頭部傷害のある例は除外されている。
平均年齢は65.7歳、HbA1c平均値は6.8%だった。
その結果、平均6.8年間観察後の認知症発症率は、メトホルミン単剤で0.62%/年、SU薬単剤は1.29%/年、グリタゾン薬単剤で0.99%/年だった。
しかし諸因子補正後、認知症発症ハザード比(HR)でメトホルミン単剤と比べると、服用開始1年後の時点ですでに、グリタゾン薬単剤で0.78(95%信頼区間[CI]:0.75-0.81)の有意低値となった一方、SU薬単剤では1.12(同:1.09-1.15)の有意高値だった。
メトホルミンと併用した場合でも同様で、グリタゾン薬追加でメトホルミン単剤に比べHRは0.89(95%CI:0.86-0.93)、SU薬追加では1.14(同:1.11-1.18)だった。
興味深いことに、グリタゾン薬に伴うリスク低下は、アルツハイマー型認知症に限っても認められた(SU薬における有意なリスク増加は認めず。血管性認知症リスクは全体と同様)。
またこれらの知見は、服用開始2年間後でも維持されていた。
なお本年の欧州糖尿病学会でWhiteley Wらによって報告された、UKPDS 試験44年観察の予備解析では「SU薬・インスリン」、「メトホルミン」とも、「食事指導」に比べ認知症発症リスクの有意抑制は認められなかった(減少傾向のみ)。
本研究への資金提供は公的機関のみだった。