A:頭痛日数や頭痛の強さなど発作中の負担に加えて,発作間欠期の社会的な負担が大きいことが知られている。症状自体によるもの,生産性の低下を中心とする金銭的損失,職場や家庭など周囲の不理解などの社会的な問題などがある。
片頭痛は,労働の損失などによる間接的な負担が大きい疾患である1)。間接負担は疾患による労働生産性の低下を原因とする経済的な損失で,アブセンティーズム(欠勤や休業)とプレゼンティーズム(労働遂行能力低下)に分類され評価されることが多い。片頭痛発作のおよそ1/3は仕事中に起こり,これらの発作の2/3は多大な労働生産性低下を引き起こしている。個人における片頭痛による間接負担は約149万円/年と言われている。わが国全体では,プレゼンティーズムだけでも年間3600億~2兆3000億円の経済的損失が発生していると推計されている2)。
医療費・薬剤費などの直接負担について2017年に行われた調査では,月に4日以上の頭痛日数の片頭痛患者(約176万円/年)と対照群(約110万円/年)では有意差がなかった1)。片頭痛の頭痛日数増加に伴い,労働生産性の低下が著明に増加していくことが報告されている(図1)3)。
頭痛発作の症状として,頭痛自体の症状に加えて随伴症状に悩まされている患者も多い。約6000人を対象にした米国からの報告では,診断基準に含まれている症状である嘔気・光過敏・音過敏はそれぞれ76%,92%,92%に認める。それぞれの症状を「最も困る症状」として報告する患者は,嘔気28%,光過敏49%,音過敏23%であった。人種・年齢に関連はなく,体重・性別・世帯収入との関連が指摘されている4)。
発作間欠期の負担として,肩こり,集中力低下,疲労感,イライラ感,睡眠障害,希望を持てない,などの症状がある。未来の頭痛発作への恐怖から,積極的に予定を入れることができないといったQOLへの影響も指摘されている5)。
さらに,欧州では,約1/3の片頭痛患者は同僚に自身の頭痛の話をすることをためらっており,10%以上は家族もしくは会社から理解されていないと感じている6)。そういった社会的な孤独感などの疾患負担は,今後注目すべき課題である。
2016年の世界保健機関(WHO)の障害生存年数(years lived with disability;YLD)によると,片頭痛は健康寿命を短縮する疾患の中で第2位に位置する負担の大きな疾患であると認識されている7)。生産世代でその有病率がピークを認めることから,社会全体の生産性への影響は非常に大きい。2021年にわが国では,片頭痛患者の約7割は医療機関を受診していなかった8)。こうした患者に適切な頭痛診療を提供することが経済的損失を最小限にすると考えられる。
頭痛の重症度を評価するために様々なスコアが開発されている。以下にそのいくつかを紹介する。
・NRS(numerical rating scale):頭痛の強さを0~10の数字で評価する
・MHD(migraine headache days): 月当たりの頭痛日数を0~30点で評価する
・MIDAS(migraine disability assessment): 過去3カ月の頭痛日数を0~270点で評価する
・HIT-6(headache impact test-6): 痛みの強さ,日常生活への影響,社会生活への影響,精神的負担を36~78点で評価する
・WPAI(work productivity and activity impairment)スコア:過去1週間の時間的な影響をもとに,アブセンティーズム(欠勤や休業),プレゼンティーズム(労働遂行能力低下),トータルワークプロダクティビティーインペアメント(休業および労働生産性の低下),トータルアクティビティーインペアメント(余暇の時間への影響度)の4つの指標をそれぞれ%で評価する
・PROMIS-PI-Tスコア:過去1週間の頭痛による楽しいこと・集中・日常生活・外出・社会的な活動への影響を5~25点で採点した後,平均を50としたデータに置換することで人口データと比較評価する
【文献】
1)Kikui S, et al : J Headache Pain. 2020 ; 21(1) : 110.
2)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会, 編: 頭痛の診療ガイドライン2021. 日本神経学会, 他監. 医学書院, 2021.
3)Hjalte F, et al : J Headache Pain. 2019 ; 20(1) : 65.
4)Munjal S, et al : Headache. 2020 ; 60(2) : 416-29.
5)Martelletti P, et al : J Headache Pain. 2018 ; 19(1) : 115.
6)Lampl C, et al : J Headache Pain. 2016 ; 17 : 59.
7)GBD 2016 Disease wand Injury Incidence and Prevalence Collaborators : Lancet. 2017 ; 390(10100) : 1211-59.
8)Shimizu T, et al : J Headache Pain. 2021 ; 22(1) : 29.
本稿は『jmedmook82 「頭痛の診療ガイドライン2021」準拠 ジェネラリストのための頭痛診療マスター』の一部を抜粋し,掲載しています。
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