統合失調症などの精神病において,顕在発症の時点から精神科医の治療を継続的に受けるまでの治療開始の遅れのことを,精神病未治療期間(duration of untreated psychosis:DUP)と呼んでいる。
幻覚・妄想や興奮などが明らかであるのに受診しない,あるいは継続的な治療につながらない期間であり,精神病に対する偏見(スティグマ)などを反映する社会的,公衆衛生的概念でもある。
わが国の調査においてDUPは,中央値4~5カ月,平均値18~20カ月ほどであったが,国際比較のデータはないものの,精神病症状の顕在後,なお数カ月もの間,専門家を受診していないという事実は,医療先進国のわが国においては長いとみなすのが自然であろう。
DUPの長短は長期予後に明らかな影響を与える。DUPが短いほど予後は良好である。さらに,顕在発症までの期間が1カ月以上に及ぶ潜行性発症群は急性発症群に比べてDUPが長く,治療開始の遅れが長期にわたり機能レベルに影響を及ぼす。今後,治療が遅れがちとなる潜行性発症の患者を,より早期に発見し有効な治療につなげる方法の開発が,統合失調症の予後を改善し十分な回復に導くために不可欠である。
DUPを短縮するためには,統合失調症や精神病への理解を深める必要がある。学校における保健の授業などで,若年で罹患する精神疾患やその治療について,具体的な対策や対応を学ぶことが望まれるが,残念ながら,わが国の学習指導要領には示されていない。
【解説】
片桐直之,*水野雅文 東邦大学精神神経医学 *教授