血管性認知症(vascular dementia:VaD)は,脳血管障害を原因とする認知症である。認知機能障害に加え運動感覚障害,構音・嚥下障害などの巣症状で疑われ,多様な病態を背景とする症候群である。脳血管障害の危険因子は,病型・病態に応じて修正可能である点で重要である。認知症背景病理として混合病理(mixed pathology)が明らかになり,脳血管障害はアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)に高い頻度で併存(most common comorbidity)し,vascular risk factorは,ADリスクとしても介入・修正可能な因子として注目される。ADとVaDは,臨床的にオーバーラップを認め,脳血管障害を伴うADは,混合型認知症とも呼ばれる。
病歴,理学所見,画像所見から認知機能障害を説明できる脳血管障害を確認する。脳卒中発作と認知症の明確な時間的関連,認知症責任病変の画像検査が重要である。VaDの臨床病型(NINDS-AIREN診断基準)には,①多発梗塞性,②戦略的単一病変(strategic single infarct),③脳小血管病(small vessel disease),④低灌流性,⑤出血性,⑥その他(遺伝性など),が知られる。代表的な戦略的部位は,尾状核頭部,視床,優位半球大脳皮質である。
全身血管病や危険因子の既往歴,完成型脳卒中の臨床経過を把握し,診察では,家庭血圧から全身血管系(冠動脈,頸動脈,下肢動脈)まで評価する。神経学的診察では,脳血管障害による局所神経脱落徴候に注意する。“まだら認知症”に配慮し,遅延再生などの記憶障害,遂行機能障害,注意障害などとともに運動麻痺,仮性球麻痺(感情失禁,構音・嚥下障害など),歩行障害〔脳血管性(下半身)パーキンソニズム〕などに注意する。
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