【リン脂質に対する抗体が産生されると偽陽性になりやすい。検査だけでなく臨床的に判断する】
まず①ですが,梅毒に感染すると,カルジオリピンなどのリン脂質に対する抗体が産生されます。通常はRPR(rapid plasma reagin)などの検査(非トレポネーマ検査)を用いてこの抗体を測定していますが,梅毒以外でもリン脂質に対する抗体が産生された状態であれば,検査上は陽性になります(RPRの偽陽性は加齢や妊娠,全身性エリテマトーデスなどでよく見られます)。また,トレポネーマ検査では,梅毒に近縁のトレポネーマ感染があると偽陽性になりやすいことが知られています。
なお,COVID-19 mRNAワクチンを接種された38人中7人(約18%)で,接種後にRPRが陽転化したとの報告があります。これらはすべて偽陽性と考えられ,該当者は皆モデルナ社製ワクチン接種後でした1)。よって,モデルナ社製のCOVID-19 mRNAワクチン接種後にRPR陽性を見つけたとしても,梅毒の臨床経過に合わない場合は,ワクチンによる偽陽性の可能性も考えてよいでしょう。
次に②ですが,陽性を見た場合に,真の陽性か偽陽性かを検査の数値だけで判断するのは困難なので,通常は臨床的に判断します。RPR偽陽性の90%が8倍以下の抗体価だったという研究2)があるので,判断の一助となるかもしれません。
【文献】
1)Korentzelos D, et al:Am J Clin Pathol. 2022;158 (2):162-6.
2)Ratnam S:Can J Infect Dis Med Microbiol. 2005; 16(1):45-51.
【回答者】
谷崎隆太郎 市立伊勢総合病院内科・総合診療科副部長