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【書評】『レジデントのための内科診断の道標』コモンな主訴への診断のアプローチを明確に示した良書

No.5145 (2022年12月03日発行) P.67

岩田健太郎 (神戸大学医学部感染症内科教授)

登録日: 2022-12-04

最終更新日: 2022-12-01

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「幸福な家庭はすべて互いに似かよったものであり,不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっているものである。」(トルストイ『アンナ・カレーニナ』,木村浩訳,新潮文庫)

治療への道筋はどのテキストでも似たものになりがちだ。EBMの時代には特にそうだ。しかし,診断への道筋は多彩なのである。よって,診断学の習得には良書をたくさん読みこなし,多様な診断プロセスを会得し,多彩な患者に対応できる重層的な能力を養っておいたほうがよい。

喜ばしいことに,ここに新たな良書が上梓された。上田剛士先生が監修されていることからわかるように,洛和会の香りがする。コモンな主訴への診断のアプローチを百科事典的な大量の文献,大量のデータを根拠に明確に示している。

これはいわば伝統的な研修病院型の学習方法である。対峙した患者から文献を探しまくり,昔ならばインデックスカードに記録し,今ならパソコンでPMIDごとにまとめる。テイクホーム・メッセージをブレット型の文章にまとめ,分量が溜まれば1冊の書物になるわけだ。あらゆる主訴の患者を診る,総合診療,ER型の市中病院だからこそ蓄積できるデータベースだと思う。

しかし,本書の特徴は小嶌祐介先生のEBMの知見と洞察力にあるとぼくは思う。

治療においては合意が得やすいEBMだが,診断のエビデンスは解釈が難しいことも多い。それは俗に言う「エビデンスの質が低い」からではなく,リアルワールド・データへの洞察が必要だからだ。治療のエビデンスは(ほぼ)誰が読んでも同じ解釈が得られるが,診断のエビデンスは素朴な記述疫学から,小規模データの感度・特異度のデータに至るまで,臨床世界とデータの十分な咀嚼とすり合わせが難しい。目の前の患者への適用(ステップ4)に知恵が要るのだ。しかも,治療のエビデンスの応用はよい結果を出そうと出すまいと「ベスト・エビデンスの適用」で落ち着くが,診断のエビデンスの誤用は端的に「誤診」というわかりやすい形で戻ってくる。

アフォリズムも多い本書は読者にも高い知性を要求する。ぜひ本書を繰り返し熟読し,学びが重層的に会得できる喜びを体感してください。

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