自己免疫学的機序を介する,髄膜,脳,脊髄の炎症性疾患である。急性・亜急性に意識障害,精神症状,認知機能障害,痙攣発作,運動異常症,運動失調,自律神経障害,睡眠障害などを呈する。すなわち認知症,精神疾患,てんかん,神経変性疾患などの中に本症が紛れ込んでいる可能性がある。一部の患者では腫瘍の合併を認め,傍腫瘍性神経症候群と呼ばれる。
診断に重要な抗神経抗体は年々新たなものが同定され,現在,約40種類が報告されている。NMDA受容体抗体,LGI1抗体,Caspr2抗体,AMPA受容体抗体,GFAP抗体などがある。
まず急性・亜急性の経過や臨床症候から本症を疑う。特徴的な臨床症候として,NMDA受容体抗体と口舌ジスキネジア,LGI1抗体とfaciobrachial dystonic seizure(一側顔面と上肢に認めるジストニア発作),GFAP抗体と振戦・ミオクローヌス等がある。頭部MRIでは両側性に側頭葉内側の異常信号を認める場合,自己免疫性辺縁系脳炎の可能性が高くなる。また,GFAP抗体陽性のGFAPアストロサイトパチーでは,側脳室周囲などに放射状に広がる線状造影病変を呈する。脳脊髄液検査では細胞数・蛋白が軽度~中等度増加するが,正常範囲のこともある。オリゴクローナルバンドやIgG index上昇を認めることがある。NMDA受容体脳炎ではextreme delta brushを認める1)。
診断基準にはGraus基準があり2),上記所見に抗神経抗体を併せて診断する。まず,possibleの基準を満たすかどうかを判定し,満たした症例はアルゴリズムに則って臨床病型(自己免疫性辺縁系脳炎など)に分類する。抗神経抗体は脳脊髄液ないし血清を用いて測定するが,前者での検査が必要なものはNMDA受容体抗体とGFAP抗体である。ただし,臨床検査の受託サービスで測定可能なものは全体の半分にも満たず,国内外の研究機関に依頼する必要がある。
また,腫瘍の検索は重要であり,腫瘍組織内に神経抗原が発現しうる肺小細胞癌,胸腺腫,乳癌,卵巣奇形腫,卵巣癌,精巣奇形腫,セミノーマ,神経芽腫,リンパ腫等が対象となる。全身CTや,必要に応じてマンモグラフィ,骨盤MRI,全身のFDG-PETを検討する。
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