ICUで使用する薬の使い方に関する書籍は数多く出版されているが,読者の皆様が気になるところは,他書との棲み分けとカバー範囲ではないだろうか。この書籍の対象は,集中治療を第一線でされていない先生で,ICUで薬を使用するときに,実際に何に注意してどのくらいの量から始めたらいいのかという誰しもが持つ疑問に,第一線で活躍している集中治療のエキスパートがわかりやすいコメントを添えている。
実際に薬剤の添付文書には,使用方法などが詳細に記載されているが,実務をこなす現場レベルの先生方は,限られた時間の中でエッセンスを一目でわかるようにしてもらいたい,しかも医療事故を起こすことなく,というのが切実な思いであろう。私自身も昔を振り返ると,添付文書などを見てまず処方をしてみるものの,これで本当にいいんだろうかという不安につきまとわれたものだ。今でも,実際に使用したことがない薬剤に対してはこのような感覚を抱く。例を挙げると,急性心不全に使用するニトログリセリンなど,指導医に「前負荷軽減を目的にニトログリセリンを開始しておいてほしい」と言われても,どう処方して,何に注意すればいいのだろうかという疑問に,“リアル”の現場で短時間で情報を提供してくれる。
次に,この書籍のカバー範囲であるが,集中治療の標準的回診は,神経(せん妄を含む)・鎮痛・鎮静,循環,呼吸,腎・電解質,消化管(栄養を含む),血液・凝固,代謝・内分泌,感染症,予防・disposition/code statusという流れになっている。本書はこの流れに沿った構成である。今までこのようなコンセプトの書籍はなく,ICUで使用する多くの代表的な薬剤を扱っており,これで読者も自信を持って,薬剤の投与を行い,薬剤反応性をしっかりと観察することができるだろう。さらに,この書籍の特典として電子版がついており,本書を持ち歩かなくてもすぐに検索ができることも“リアル”の現場に即している。