前頭側頭型認知症は,行動異常型(Pick病)と失語型(意味性認知症と進行性非流暢性失語症)を包括する臨床診断名である。失語型の意味性認知症(典型的な左側頭葉前部萎縮発症では言葉の意味記憶障害による語義失語,右側頭葉前部萎縮発症では相貌の意味記憶障害による相貌失認が特徴)とともに,前頭側頭葉変性症として難病指定されている。
45~65歳の比較的若年発症で,早期からの行動障害(脱抑制・反社会的行動,共感や感情移入の欠如,固執・常同性,口唇傾向・食生活変化)を主徴とするが,レビー小体型認知症の幻視・幻覚や体系化された誤認妄想,アルツハイマー型認知症の物盗られ妄想は稀であることに留意する。
初期には,エピソード記憶や視空間認知障害が目立たないにもかかわらず遂行機能障害を認めるが,「要領や手際の悪さ」に対して助けを求める振り返り徴候や取り繕いが目立つわけではなく,考え不精・雑・何ら罪悪感のない手抜き行動や,周囲の刺激に容易に影響を受けて注意散漫や集中困難で作業の取り組みが成り立たない(立ち去り行動等)“わが道を行く”行動に起因する。他の認知症にもまして病識はなく,病院受診に至るまでが大変で,常識を逸した行動に違和感を覚え,これはおかしいとの直感から相談のために来院した家族の意図を汲み取り,一緒にトラブル回避治療を開始することが肝要である。
進行性の神経変性疾患のため,根本的疾患修飾効果を有する治療薬は未開発であり,症状を緩和するための対症療法やケアが治療の中心である。本人には病識がなく,わが道を行く行動をとるため,理性のかけらもなく人格的にも変わったと感じる状態から生じるトラブルに,介護する家族は戸惑い,困惑し,振り回されており,このトラブル対策・その未然の防止や軽減を図ることが,対症療法の主眼となる。
薬物療法は行動改善を目的とした選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)が,非薬物療法としては症候学をふまえたケアと行動療法が「認知症疾患診療ガイドライン2017」でそれぞれ推奨されている(エビデンス2C)1)。特に症候学,すなわち【診断のポイント】の項で述べた行動障害の特徴的な症状を理解すること,患者の生活環境を整えながらトラブルの未然防止を図る際には,消耗し余裕のない家族に病気の理解とケア対応の極意を伝授することを肝に銘じねばならない。説明は具体的に,医学用語でなく噛み砕きわかりやすく,を心がける。
働き盛りの比較的若齢で発症するため,経済的支援での負担軽減も考慮する必要がある。先に述べたように,前頭側頭葉変性症として指定難病に登録されており,医療費助成を担保するため難病申請を必ず行う。初老期における認知症として特定疾患指定されており,本来65歳以上でなければ利用できない介護保険サービスが40~64歳でも要介護認定を受けることで可能となるため,この介護保険申請も必須事項である。
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