ノロウイルス(一本鎖プラス鎖RNAウイルス)による感染症で,胃腸炎の主因である。感染性胃腸炎(汚染した手指からの経口感染,吐物などから浮遊したウイルスの吸入による)のほか,国内の食中毒の最大の要因である。全年齢で急性胃腸炎を起こし,無症状排泄者は1割弱と言われる。
夏季には少なく,冬季(主に11~2月)に流行する。ノロウイルスに感染すると,1~2日の潜伏期間を経て,嘔吐,腹痛がみられる。下痢,発熱を呈することもある。周囲の流行状況,同一食品を喫食した者での複数発生(飲食店や仕出し屋の発生が多いが,原因食品は特定できないことが多い)から疑う。
便の迅速抗原検査(保険適用上の制限あり)やPCR検査(保険適用外)で確定診断は可能である。
ノロウイルス感染症に特異的な治療はない。嘔吐,下痢,発熱に対する対症療法を行う。ナウゼリンⓇ(ドンペリドン)などの制吐薬は,錐体外路系などの有害事象から,ガイドライン上でも「有効性とのバランスを勘案して使用を決める」こととなっている。国内の整腸薬については,エビデンスレベルは低いが,有害事象はほとんどない。止痢薬であるロペミンⓇ(ロペラミド塩酸塩)は小児に対して有効性を認めるが,中枢神経系の有害事象のため,慎重に投与すべきとされている。止痢薬であるアドソルビンⓇ(天然ケイ酸アルミニウム)やタンニン酸アルブミンについては,エビデンスレベルが低い。
テグレトールⓇ(カルバマゼピン)の単回投与(内服)が有効とされる。セルシンⓇやダイアップⓇ(ジアゼパム),ミダフレッサⓇ(ミダゾラム)は多くの症例で無効である。
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